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「リケジョ」を育てる気がない日本の教育現場

2015年12月15日(火)17時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

 比較の対象を広げると、社会ごとの違いはもっとはっきりする。<図1>は、横軸に数学的リテラシー、縦軸に科学的リテラシーの平均点の男女差をとった座標上に、64の国を配置したグラフだ。

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 数学、科学共に男子学生の方が高い国の数は多い。しかしその反対の国もある(左下の囲み)。北欧のスウェーデンやフィンランド、イスラム社会のヨルダンやカタールでは、数学・科学ともに男子より女子の平均点が高い。イスラム社会では女子の社会進出(教育機会)は制限されているはずだが、国力増強につながる理数系の分野では女子教育にも力を入れているのかもしれない。やはり理数系学力の男女差は、脳の違いのような生物学的なものではなく、社会的なジェンダー(性)の問題とみたほうがよさそうだ。

 つまり問題の根底には、「男子はこうあるべし、女子はこうあるべし」という性規範がある。この観点から日本の現状をみると、思い当たる節がある。女子は理数教科が不得意なのが普通という思い込みを持たされ、向学心を摘み取られている。女子が理数教科で高い点をとると、奇異の目で見られることも少なくない。データでみても、理科でよい点をとることを期待されていると感じている生徒は、男子より女子の方が少ない(村松泰子『学校教育におけるジェンダー・バイアスに関する研究』東京学芸大学,2002年)。

 中高の理数教科の担当教員に女性が少ないことも、こうした思い込みを助長している。進路選択を控えた女子学生にとって、役割モデルの欠如の問題は大きい。アメリカ、フランス等、欧米諸国では中学校の理数系の教員の半数を女性が占めている。日本でも女性教員比率の数値目標の設定など、何らかの改善策が必要かもしれない。

 理数教科の学力の男女差は、教育実践によって克服することが可能な領域だ。日本でも上記のように教育現場の環境を改善すれば、もっと多くの「リケジョ」の才能を開花させることができるのではないだろうか。

<資料:OECD『PISA 2012』

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[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]

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