最新記事

途上国

世界企業に「尊厳」を求め始めた新興中流層

人気即席麺の安全性が問われたネスレは即座に対応、世界の中流層は不当に扱われることにもう我慢ならない

2015年7月1日(水)17時14分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

新しい消費者 豊かになったインド中流層(ムンバイの市場) Danish Sidiqui-REUTERS

 食品世界最大手ネスレのポール・ブルケCEOは、床に落ちていた麺に足を滑らせたかのようだった。同社でも売れ筋の即席麺「マギー」が、インドで騒ぎを起こしたのだ。

 インドの食品監督当局は、中流層の食卓に欠かせないこの即席麺に、法的基準を上回る鉛が含まれていたと公表。いくつかの州で販売が禁止され、メディアはこぞってネスレを非難した。

 ブルケはすぐにインドに飛んで記者会見を開き、食品はまったく安全であると宣言し、信頼の回復に努めると固く約束した。

 インドの即席麺市場は世界第4位。そのインドでマギーは70%近いシェアを誇り、インドにおけるネスレの収益の約30%を占める。CMにインド映画のスターを起用し、新しい中流層、それも子供を中心に売り込んでいる。マギーは堅実な成長が約束された人気商品だった。

 CEOの迅速な対応は、新興成長市場で中流層の力が増大しつつあることを示している。コカ・コーラ、トヨタ、フォード、アップルといった他の大企業も中流層の反応に敏感だ。それは、自社の未来を左右する力を持っているからだ。

 経済アナリストのダニエル・ヤーギンはかつて、20世紀の重要な産物である石油を「プライズ(貴重品)」と呼んだ。いま私は、新興成長市場の中流層が現代の「新しいプライズ」だと考えている。企業や政府、グローバルな組織は、責任、透明性、効率を求め始めたこの貴重品を、細心の注意を払って扱わなければならない。

 マギーへの怒りは、自信を持った中流層が期待を膨らませ、要求度を高めた結果だった(ただし、ネスレやシンガポール当局の検査で麺に異常はなかったという判断が下ったことは明記しておきたい)。

 インド人の怒りが正しいかどうかはさておき、ここに重要な点がある。もう彼らは、何か事件が起きても今までのように「やれやれ、また災難か」とやり過ごすことはない。だからグローバル企業のトップも、インドに飛ばなくてはならなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ首相、イランとの戦争で「和平の機会拡大」

ワールド

クアッド外相会合、7月1日に開催=米国務省

ワールド

SCO国防相会議、共同声明採択至らず 「テロ」言及

ワールド

ベゾス氏の豪華結婚式、ベネチアで始まる 芸能・政財
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    単なる「スシ・ビール」を超えた...「賛否分かれる」…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中