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五輪は大会より招致レースに経済効果?

東京も2020年夏季五輪の招致活動が大詰めを迎えているが、落選しても大きな経済効果があるという分析も

2013年3月18日(月)17時02分
マシュー・イグレシアス(スレート誌経済・ビジネス担当)

未来のお荷物 東京も2020年夏季五輪の開催地に名乗りをあげているが、競技場などへの大型投資は避けるべき Tokyo 2020 Bid Commitee-Reuters

 ロンドン五輪の経済効果は向こう4年で130億ポンドに達する――大会開催前に、デービッド・キャメロン英首相はこう主張した。政治指導者がオリンピックの景気浮揚効果を訴えるのは今に始まったことではないが、その見通しは本当に正しいのか。

 過去のオリンピックに関する経済学的研究によれば、開催国の期待どおりの経済効果が実現する保証はない。むしろ、実際にオリンピックを開催しなくても、招致レースに参加するだけで同程度の経済効果を得られる場合もあるようだ。

 オリンピックに関してよくいわれるのは、金の無駄遣いという批判だ。確かに、オリンピックの費用は数十億ドル単位で予算をオーバーする場合が多いが、無駄遣い批判が常に正しいとは限らない。

 景気低迷が続くイギリスには、職に就けずにいる人が大勢いる。その一方で金利が極めて低く抑えられているので、建設事業の資金を少ないコストで調達できる。このような状況では無駄遣いの弊害以上に、オリンピック関連事業に投資を行い、雇用を生み出す利点のほうが大きい。

効率の悪い雇用創出策

 とはいえ、悪影響が生まれる可能性もある。96年のアトランタ五輪について、アメリカのレークフォレスト大学のロバート・バード教授とホーリークロス大学のビクター・マセソン准教授が行った研究がある。それによると、「94年以降に、アトランタが通常の水準を超えて実現した経済成長がすべてオリンピック関連の公共事業の恩恵だとすると、アトランタはフルタイムもしくはパートタイムの職を1つ創出するために約6万3000ドルをつぎ込んだ計算になる」。

 2人に言わせれば、この成果は経済的には不十分だ。過去の一般の公共事業は、同等の金額でフルタイムの職を1つ生み出していたからだ。オリンピック関連支出のせいで、それより効率のいい経済活動が行われなくなったのだ。

 一方、カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院のアンドルー・ローズ教授とサンフランシスコ連邦準備銀行のマーク・スピーゲルによれば、オリンピック開催国では輸出が30%伸びる。この効果は持久性があり、統計的な裏付けも確かだという。

 しかしこれをもって、オリンピックが経済に好影響を及ぼすと結論付けるのは早い。ローズとスピーゲルの調査によると、オリンピック招致を本気で目指して落選した国にも、実際の開催国と同等の効果が表れているのだ。

 オリンピックを開催することや関連の建設事業を行うことより、オリンピック招致レースに加わることのほうが経済効果の面では重要なのではないかと、ローズとスピーゲルは仮説を立てている。オリンピックを招致するには、莫大な金を掛けて、自国の政治の近代性と対外的な開放性を国際社会に納得させなくてはならない。経済に好影響を及ぼすのは、そういう近代化の取り組みではないかというわけだ。

 08年の北京五輪は、中国の政治と経済の近代化の一環だった。もし北京が招致レースに敗れていたとしても、そういう近代化は実現していた可能性が高い。

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