最新記事

ボーイング

飛べない787にまた難題

2013年3月12日(火)17時03分
クライブ・アービング(英コンデナスト・トラベラー編集者)

 だが85年にはFAAも譲歩し、緊急着陸用の空港までの時間を従来の60分から120分に倍増させた。「双発機の拡大範囲運行」の頭文字を取った「ETOPS」体制の始まりだ。

 ボーイングの767型双発機はこの新体制の下で初めて大西洋横断を許された。そして3年後までには、空港までの距離が180分の範囲の航路を飛べる認定を獲得した。

 それでも、ボーイングの要求はとどまるところを知らなかった。同社は当時最大の777型双発機を造り、太平洋のいくつかの航路を飛ぶために空港まで207分の認定を求め、2000年に認められた。

 777型機の安全記録は群を抜いていた。世界で1500機近くが就航したが、死者は1人も出していない。

 それどころか、乗客を恐怖に陥れる芸当もやってのけた。03年8月、ニュージーランド発ロサンゼルス行きのユナイテッド航空の777型機のエンジン1機が洋上で故障し、急きょハワイ島西部のコナに向かった。逆風を押して192分後、無事空港にたどり着いた。ETOPS史上、最長の目的地外着陸だ。

 だがこれは、伝統的な設計の777型機の話。787型機ドリームライナーは、伝統的なジェット機の設計を覆し、飛躍的な進化を意図した航空機だ。

空の旅はかつてなく安全

 ボーイングが言うように、より「電気航空機」に近いというのも進化の1つだ。電気で飛行機を飛ばすには、400世帯分の電気を起こす発電システムが要る。その中核部品の1つがリチウムイオン電池。この電池を飛行機に載せるのは、ボーイングにとっても初めての経験だ。

 それにもかかわらずボーイングは、ETOPSで330分の認定を性急に欲しがった。現在認定を受けている180分からは大きな飛躍であり、その180分を獲得するのでさえ777型機は200万回のフライトと16年を要したのだ。

 ボーイングの広報担当者マーク・バーテルは本誌に対し、適切なバッテリーとシステムと安全装置があれば、リチウムイオン電池は大きな恩恵をもたらすと語った。バッテリー火災後の調査でも、その確信を覆す発見はなく、「ETOPSの330分を目指す方針に変わりはない」と言う。

 ボーイング幹部は、航行支援システムなど技術の漸進的進歩のおかげで、飛行機はかつてなく安全なものになっているという驚くべき証拠を突き付けることもできただろう。

 例えば昨年の国際線の事故件数は11件で、1945年以来で最低になった。1日3万便が空を飛んでいるにもかかわらずだ。死亡事故はもう4年間、起きていない。航空機の設計上の事故原因は、ほぼ排除されたかのようだ。

 実際、昨年11月の時点で、ANAは787型機を1年間飛ばし、乗客200万人を大きなトラブルもなく安全に運び、大いに満足していた。ボーイングの説明によれば、テスト飛行も含めて全130万時間の飛行を行っても、リチウムイオン電池に何一つ深刻な問題はなかったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、8月は5.4万人増 予想下回る

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー

ワールド

ウクライナ支援の有志国会合開催、安全の保証を協議

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中