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電気自動車の「本命」がハイウエーにやって来る

シリコンバレーが生んだテスラの中型セダン「モデルS」は自動車業界に革命を引き起こせるか

2012年9月13日(木)15時20分
ウィル・オリマス(スレート誌記者)

走る優越感 車線変更のため加速すると、周囲の車が道を空けた Noah Berger-Reuters

 マンハッタンのハイウエーで米電気自動車(EV)メーカー、テスラモーターズの「モデルS」の試乗を行った。私が車線変更を試みると、預言者モーセの前で海が2つに割れるかのように、周囲の車が道を空けた。

 アクセルを踏み込むと、今までの車では得られなかった興奮が味わえた。車が何の物音も立てずに疾走を開始する。たった4.4秒のうちに、時速約100キロに達する加速性能を備えているのだ。 

 自分のことを、物質的な富で優越感に浸るような人間だとは思いたくない。でも忍者のように音もなく走る私の車を、BMWのドライバーが指をくわえて眺めているとしたら痛快だ。

 その昔、周囲の馬車を尻目に走ったT型フォードさながら。テスラ初の量産車である中型セダン「モデルS」はわずか15分間の試乗で十分な自己満足に浸ることができる。

 サンノゼ・マーキュリー・ニューズ紙のトロイ・ウルバートンも試乗記にこう書いた。「今や私も高級クラブの会員だ。テスラの新型EVを運転した少数派の1人なのだから」

 ボンネットを開けても、20世紀の車と違ってチューブやファン、パイプ、金属部品などは見当たらない。そのスペースは「フロントのトランク」という意味でフランクと呼ばれる。ちょっとした荷物などを放り込めるので便利だ。ハンドルの横には、カーナビなどの機能を持つ17インチのタッチスクリーンを搭載している。

 モデルSはデトロイトではなくシリコンバレー製。流れるようなラインのスタイルといい、すっきりとしたデザインといい、まるでアップル製品の自動車版ともいえそうだ。

 ただしアメリカの自動車業界や保守派は、テスラは「高価なおもちゃ」作りのために連邦政府から4億6500万ドルもの低利融資を受けた、と批判を浴びせている。なかなか専門家に試乗させない方針も問題視されている。

 モデルSが抱える主要な問題点は、価格の高さといえそうだ。一番安いタイプでも4万9900ドルもする(米政府の税控除適用後)。最高級タイプとなると、9万7900ドルにもなる。

 モデルSの出荷は6月に始まったが、廉価なタイプが市場に出回るのはしばらく先になる。8万7900ドル以上の高級タイプが1000台以上出荷された後のことだ。

© 2012, Slate

[2012年8月 8日号掲載]

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