最新記事

テクノロジー

グーグルTVで丸ごとインターネット!

数百あるチャンネルが数十万に──ネットのすべてを提供する新時代テレビがもたらす未来とは

2010年11月15日(月)15時44分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 ネットとテレビを融合させる努力は何年も前から続いているが、誰も成功していない。テレビに取り付けてネットのコンテンツをダウンロードするティーボや、アップルTVのような箱(セットトップ・ボックス=STB)はたくさんある。マイクロソフトやソニーのゲーム機もそうだ。

 しかし、どれもできることが少しずつ違っていて、1つでインターネットのすべてを提供してくれる製品はない。そこに現れたのがグーグルTV。専用STBや一部のテレビにあらかじめインストールされてくるソフトウエアで、テレビを完全なパソコンにしてしまおうという製品だ。

 iPhoneやグーグルのアンドロイド携帯のようなスマートフォンが携帯電話にネット革命をもたらしたように、グーグルTVはリビングにある大画面を激変させるかもしれない。「ウェブのおかげで携帯電話は飛躍的に進化した。次はテレビの番だ」と、グーグルの製品開発担当マネジャー、リシ・チャンドラは言う。

 もしグーグルTVが同社の宣伝どおりに機能するなら、テレビでウェブを閲覧したり、アプリケーションをダウンロードしたりできる。ツイッターでつぶやくのも、ネットラジオを聴くのも自由自在。さらにホームネットワークに接続すれば、パソコンに保存した写真などのデータを見ることも可能だ。テレビチャンネルやウェブサイトを「お気に入り」に登録したり、自分のスマートフォンをリモコン代わりにすることもできる。

グーグル広告を居間にも

 グーグルTVのソースコードはすべてのアプリ開発者に公開されている。うまくすると、携帯電話に起こったのと同じ大変革がテレビでも起きるかもしれない。グーグルが言うように、このソフトの「一番すごいところは、そこからどんなすごい発明が出てくるか分からないということ」。

 グーグルはテレビメーカーにもソフトを無償で提供する。そんなことをして一体何の得があるのか。GメールやYouTube、グーグルマップなど同社のオンラインサービスをもっと多くの人に使ってもらい、グーグルが配信する広告を見てもらうのが狙いだ。「1日5時間テレビを見て過ごす人たちにも、グーグルのサービスを届けたい」と、チャンドラは言う。

 とはいえ、グーグルはユーザーインターフェースの設計が不得意で、これまで一般ユーザーと直接ビジネスをした経験もない。グーグルTVに素晴らしい機能はあっても、普通の人には複雑過ぎるものになるのではないか心配だ。

 しかし、グーグルTVあるいはその類似ソフトが、あらゆるテレビに標準装備される日はそう遠くないだろう。ソニーは10月から、グーグルTVを搭載したテレビを米市場に投入。スイスのパソコン周辺機器大手ロジテック・インターナショナル社も、グーグルTV対応のSTBを今月中にも発売する。キーボード兼リモコンが付いて、値段は299・99ドルだ。

 問題は、消費者が「テレビとは別の箱」まで買いたがらないこと。アップルCEOのスティーブ・ジョブズは数カ月前、アップルTVが発売から3年たっても売れない理由を聞かれてそう答えた。

アップルはTVを作る?

 その後アップルは、新型のアップルTVを前の機種の229ドルから99ドルに値下げして発売した。アナリストによれば、よく売れているという。だが、アップルTVでアクセスできるのはアップルのiTunesストアと、DVDレンタルのネットフリックスや写真共有サイトのフリッカーなど限られた提携サイトだけだ。

「テレビとは別の箱」という問題も残る。アップルも、グーグルのように他社のテレビに自社ソフトを組み込むことはできる。しかし、それはアップルの流儀にそぐわない。いっそ自社でテレビを開発するのではないかという憶測もある。アップル製のテレビがあったら、最高にカッコいいだろう。

 われわれは新しい時代に突入した。これまで「テレビ」と思ってきたものが、インターネット上にある無数のコンテンツと並ぶもう1つのチャンネルにすぎなくなる。今ある数百チャンネルは、数十万チャンネルになる。

 オタクにはたまらない。しかし、ハードディスク内蔵テレビの録画予約にも挫折した機械音痴にとっては、真の悪夢の始まりだろう。

[2010年10月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中