最新記事

債務危機

アイルランド、国家存続の瀬戸際へ

08年に国家破綻したアイスランドとアイルランドの違いは「ス」か「ラ」の違いだけ、というジョークが現実に

2010年11月16日(火)16時58分
コナー・オクレアリー

厳冬を待つ 政府に国を救えると思う国民はごくわずか(10月2日、ダブリン) Cathal McNaughton-Reuters

 アイルランド国民は、08年に銀行危機で国家破綻したアイスランドを横目で見て、自分たちの経済ははるかにましだと信じてきた。だが今や、両国の違いは国名の「ル」か「ス」の一文字だけだ、というジョークが現実になろうとしている。

「アイルランドの借金返済能力に対する投資家の信頼は、失われたも同然だ」と、アイリッシュ・タイムズ紙のエコノミスト、ダン・オブライエンは言う。アイルランド危機の原因は、不動産バブルの崩壊で不動産開発業者に対する融資に巨額の焦げ付きが発生したことだ。

 危機はこの数週間で一気に深刻化し、この国は「ひっそりと独立国として存在することをやめ、欧州中央銀行(ECB)の後見を必要とする存在になった」と、アイルランド国立大学ダブリン校の経済学教授、モーガン・ケリーは言う。

 確かに、アイルランドにはアイスランドにない強みがあるはずだった。2011年半ばまでは財政を切り盛りしていけるだけの準備金があることと、アイルランドはユーロ圏の一員なので、他のユーロ諸国もその破綻を何としてでも回避しようとすることだ(現にアイルランド危機が表面化して以降、ポルトガル、スペイン、イタリアは既に海外での債券発行が難しくなっている)。

 だが今や、アイルランドの銀行の損失の穴埋めに必要な資金は、政府の財源をはるかに超えてしまったと、モーガンは言う。住宅ローンの焦げ付きも今後さらに大量発生するだろう、と彼は予測する。

 アイルランドは、11年まで国際市場での資金調達を中止することに決めた。借り入れコストがアイルランド史上で最高の9%に跳ね上がったからだ。多くのアナリストは、アイルランドとポルトガルは、欧州金融安定化基金の救済を受けるしかなくなるだろうと見ている。5月のギリシャ危機をきっかけにEU(欧州連合)とIMF(国際通貨基金)が設立した7500億ユーロの基金だ。

ギリシャの二の舞はいやだ

 アイルランド政府は、支援を受けたためにIMFの緊縮プログラムを押しつけれているギリシャの二の舞を避けるには、自ら支出削減と増税を主導する以外にないと必死の努力を続けてきた。12月に出す予算案は、赤字削減規模60億ユーロという同国史上で最も厳しいものになる予定だ。

「我々には国を持続させ信用を維持する力がある」と、ブライアン・レニハン財務相は言う。

 だが社会の安定に対するコストは小さくないかもしれない。政府は、政府の「無能」に怒った国民の抗議デモを予期している。11月3日には、大学の授業料値上げに抗議する学生と警官隊がダブリンで衝突し、負傷者を出す騒ぎもあった。

 ブライアン・カウエン首相率いる連立政権にとってさらに困ったことに、政府は11月25日までに補欠選挙を行わなければならない。もし最大与党の共和党が事前の予想どおり敗北すれば、カウエンは国民の猛反発必至の緊縮予算案を成立させるために、数えるほどの独立系議員に頼らなければならない。

 どう転んでも、アイルランドを待っているのが最悪の冬なのは間違いない。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者32人に、子ども14人犠牲 

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中