最新記事

アップル

ジョブズ流、正しいミスの認め方

iPhone4の欠陥をめぐる会見を「成功」に導いた7つのスピーチテクニックとは

2010年7月20日(火)17時30分
ケビン・ケラハー

欠陥商品? ジョブズは謝罪することなく、iPhone4の不具合を認めるという綱渡りをしてみせた Paul Hackett-Reuters

 それは、誰にでも起こることだ。ミスをして人を傷つけたり、周囲に不便を強いたりする。相手は戸惑うこともあれば、怒りを爆発させることもある。

 そんなとき、過ちを認め、失敗を取り戻すために手を尽くして前に進むのが「大人」の対応だ。

 数々の成功を積み重ねてきた企業経営者でさえ、失敗と無縁ではない。そう、あのスティーブ・ジョブズであっても。

 アップルの新製品iPhone4のアンテナの不具合をめぐって7月16日に行われたジョブズの記者会見が注目を浴びた本当の理由も、まさにそこにあった。

 iPhone4の持ち方が悪いと通話が切れてしまうというアンテナの欠陥疑惑は、アップルの必死の火消し工作にも関わらず、この一カ月ほど連日、大々的に報じられてきた。これは意欲的な発明について回る副産物であり、ありふれた問題だ、メキシコ湾の石油流出事故のようなスキャンダルではないのに、メディアは騒ぎ過ぎだ──。アップルはそんなPRをして騒ぎを収めようとしたが、無駄だった。

 その結果、ジョブズの会見は、文化現象にもなった成功企業が失敗にどう対処するかを示す最高のケーススタディーとなった。私としては、ジョブズに高得点をつけたい。一部の課題を除けば、彼のプレゼンテーションは見事だった。ジョブズのスピーチテクニックを細かく見ていこう。

■理由を説明する前にミスを認める

 会見の冒頭、ジョブズはこう切り出した。「われわれは完璧ではない。電話も完璧ではない。私たちもあなた方もそのことはわかっている。それでも私たちは、すべてのユーザーをハッピーにしたい」

 簡潔で優しさにあふれ、相手の怒りを静めるのに効果的な表現だ。

■事実を率直に認めつつ、率直になりすぎない

 ジョブズは会見のせりふを注意深く練り上げることで、謝罪をすることなく、アップルのミスを認めるという綱渡りを成功させた。企業のトップが公に謝罪をすると、株主に訴えられる恐れがある。質疑応答で「投資家に謝罪するか」という質問が出たが、ジョブズは拒んだ。

■論点をすり替える

 問題点について語る際に、ジョブズはまずiPhone4の優れた点を挙げた。確かに宣伝くさかったが、簡潔な表現のおかげで必死で自画自賛しているようには聞こえなかった。

 次いで、スマートフォンにはこの手のアンテナの不具合は付き物だという話を、ブラックベリー・ボールド9700や台湾のHTCのデロイトエリスの例を挙げて説明した。「スマートフォンの世界では日常的なことだ」と、ジョブズは言った。「電話は完璧じゃない」

 この釈明によって、アンテナ問題は突如として、アップルではなく業界全体の課題にすり替わった。非常に巧妙なやり方だ。

■十分な解決策を提示する(ただし気前がよすぎるのもダメ)

 ジョブズは自分の主張を存分に訴えた後で、対応策を提示した。iPhone4のすべてのユーザーに、手がアンテナに触れるのを防ぐケースを無償で配布し、それでも不満な人には返品手数料なしで全額払い戻しに応じるというのだ。

 一部で予測されていたリコール(回収・無償修理)ではなかったが(今回の問題の一部がソフトウエアの不具合であることを考えれば、リコールの可能性は低かった)、ユーザーの怒りを和らげるには十分、寛大な対応だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中