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キンドルはアメリカ衰退の象徴か

アマゾンの電子書籍端末「キンドル」の部品はほとんどが外国製。アメリカ産業界の未来に対する悲観論も噴き出しているが……

2010年3月1日(月)18時17分
マリオン・マネカー

ヒットの理由  電子書籍でメーカーのソニーが成功せず、小売業のアマゾンが大成功を収めたことの意味(アマゾンの「キンドル」) Dani Cardona-Reuters

「アマゾンのキンドルはアメリカ衰退の象徴か?」と題した記事がニュー・リパブリック誌のウェブサイトに載っている。

 キンドル(やその他の電子書籍端末)の部品の多くがアメリカ国内で生産されていないのは、アメリカが衰退する予兆にほかならない----というのが、この記事を書いたブルッキングズ研究所のマーク・ミューローの主張の骨子だ。ミューローはハーバード・ビジネススクールのウィリー・シー教授のブログ記事を引用して、次のように述べている。


 シー教授が指摘するように、(キンドルの)ディスプレーを製造できないアメリカは、「大型のフレキシブルディスプレーや次世代型の電子署名」など、ディスプレーの製造現場で生まれるかもしれない未来のビジネスに乗り遅れる可能性が高い......シー教授はこう書いている。「能力を手放すと、1つの産業だけでなく、そこから派生するあらゆる産業を失う場合がある」

 
 しかし、別の見方もできる。ソニーとアマゾンを比べてみてほしい。メーカーであるソニーはとっくの昔に電子書籍端末を開発していたが、売り上げがパッとせず、いまだ開発の努力が経済的に実を結んでいない。

 一方、小売企業のアマゾンは自社の既存のビジネスを後押しする狙いでキンドルを売り出し、たちまち売り上げと株価の上昇という成果を手にした(もっとも、騒がれ過ぎのきらいはあるが)。

部品づくり能力より重要なもの

 勘違いしてはいけないのは、キンドルの部品をつくっているアメリカ国外の孫請けメーカーが莫大な利益を上げているわけではないということ。ミューローも指摘しているように、キンドルの部品製造の過程ではかなりコストが掛かっていて、それぞれの企業が上乗せできる利益は多くない。

 キンドルという商品の本当の価値は、(部品の総和ではなく)デザインと根幹をなすテクノロジーにある。実際、クアルコムやEインクなど、最終部品をつくっている企業はアイデアで稼いでいる。

 では、アマゾンはどうか。アマゾンはキンドルの値引き販売を行っていないし、定価も09年10月以降、259ドル(第2世代キンドルの価格)のまま引き下げていない。しかも、ベストセラー本のキンドル版を採算割れの価格で販売する案を撤回。コンテンツ販売で赤字を生み出す可能性も消えた。要するにアマゾンは、ハードとソフトの両面で利益を得られる体制を築いているのだ。

 電子書籍の世界で本当に重要なイノベーションを----つまり利益を----生み出しているのは、部品づくりの能力ではなく、目に見えないアイデアなのだ。

*The Big Money特約
http://www.thebigmoney.com/

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