最新記事

新興国

次の投資フロンティアはシリアだ

原油、急増する人口、安定した通貨、少ない債務……潜在力は大きい

2009年12月21日(月)15時06分
バートン・ビッグズ(ヘッジファンド「トラクシス・パートナーズ」マネジングパートナー)

 イランと長年の友好関係にあるシリアは、かつてジョージ・W・ブッシュ米大統領から「悪の枢軸国」と名指しされた。しかしここにきて、孤立状態を脱する準備が整いつつあるように見える。

 これは中東の平和と繁栄を考える上で重要な変化であり、実際にシリアに新たな時代が訪れるとすれば、その原動力となるのは若き大統領バシャル・アサドだろう。

 中東の和平交渉はシリア抜きでは実現できない。かつてヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は、エジプト抜きでは戦争は起きないが、シリア抜きでは和平は実現しないと述べた。この言葉は今の時代にも当てはまる。

「成長の地」といえば新興国市場だが、10倍株が生まれるのは既に株が高値で取引されている既存の新興国市場ではなく、未開の「フロンティア」市場だ。1、2年先にはシリアもその仲間入りする可能性はあるが、手を出すのはまだ早い。今のところ非居住者が買えるシリアの銘柄はないからだ。

 しかし、やがて状況は変わるだろう。外国直接投資(FDI)、インフラ整備、健全に機能する株式市場の確立が循環的に進み、魅力を増していけば、シリアにとっても投資家にとっても大きな利益を生む可能性がある。

 シリアは古代オリエント文明の中心地で、「肥沃な三日月地帯」と呼ばれる農耕地帯に位置する。見事な景観と古代遺跡が今も残されている一方で、周囲はイラク、レバノン、イスラエル、トルコ、ヨルダンといった手ごわい国々に取り囲まれている。

 それでも、シリアに潜在する経済的な魅力は大きい。まずは原油があること。急増する人口は2000万人を超え、若者が多い。企業家精神あふれる経済はやや未熟ではあるが拡大を続けており、対外債務も少ない。通貨シリア・ポンドは安定しており、財政赤字もほんの僅かだ。

現実的なアサド大統領

 実質GDP(国内総生産)成長率は年6〜7%。世界銀行の最新調査では「犯罪が少ない」国の1位に挙がっているが、「官僚制度とインフラに問題が多く、融資を受けにくい」国にも選ばれている。

 国外で成功を収めた在外シリア人たちは、次々と母国へ金を送り込んでいる。観光資源も計り知れない。外国人が訪れることの少ない首都ダマスカスは、青空市場とモスク(イスラム礼拝所)が彩る昔ながらのアラブの古都だ。

 私は国外に住む著名なシリア人の協力でシリアを訪れ、アサド大統領をはじめ、経済担当の副首相、金融相、実業家、学者、銀行家などと面会することができた。

 会合は儀礼的なものではなく、お粗末なプレゼンテーションもいくつかあったものの、議論は率直で白熱した。大半のシリア人はアメリカが一方的にイスラエルの肩を持っていると捉えており、アメリカによる経済制裁や9月にニューヨークでの国連総会に出席しようとしたアサドのビザ申請が却下されたことに憤っていた。

 アサドは魅力的な人物だ。かつてはロンドンで若き眼科医として活躍していたが、兄が自動車事故で死亡したのを機に帰国。30年間圧制を敷いた父親の死後、00年に大統領に就任。40代半ばだが雄弁で見識があり、カリスマ性もある。

 アサドは政府が国民一人一人の所得水準を上げ、雇用を支援しなければならないことを率直に認めている。経済の緩やかな自由化と和平に取り組む自分は、過激派にとっては敵だとも語った。発電所やダム、学校、道路を造るには国外からの投資が欠かせないことも認識している。

初の証券取引所が誕生

 幸いにもFDIの投資先としてシリアは魅力的な国だ。通貨は安定しており、対外債務も国内債務も極めて少ない。昨年のFDIは20億ドルほどだったが、その大半はアラブ諸国からの投資だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中