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中東経済

ドバイ、金ピカ国家の宴が終わるとき

2009年11月30日(月)12時13分
クリストファー・ディッキー(中東総局長)

 不動産投機ゲームに誰もが参加したがった。「社員は仕事そっちのけになった」と、地元の運輸会社の会長は嘆く。「みんな、不動産を安く仕入れることばかり考えていた」

 ドバイは世界に向けて活発に投資を行うようにもなった。ドバイ証券取引所は今やロンドン証券取引所の株式の20・6%、ナスダックOMX(07年に米ナスダックとスウェーデンの証券取引所運営会社OMXが統合)の株式の43%を保有。政府系投資会社の傘下には、英ホテル会社トラベロッジや独銃器メーカーのモーゼル、米高級百貨店のバーニーズ、米ブランド品ディスカウント店のローマンズなどの企業が並ぶ。

 05年初めには石油相場の急騰を追い風に、ドバイの好景気が加速しはじめた。一部の政府高官はバブル過熱への警戒感を内々に口にするようになったが、石油相場の上昇は止まらず、ドバイには新しい資金が流れ込み続けた。こうして社会に楽観的なムードが広がっていった。世界経済がどうなろうと、ドバイには関係ない、と。

 昨年秋以降に石油相場が急落したとき、対応する準備は誰にもできていなかった(一昨年夏に比べて、石油価格は3分の1以下に落ち込んだ)。「外の世界との間にクッションはあるけれど、世界と完全に切り離されていたわけではなかった」と、スタンダード・チャータード銀行のエコノミスト、メアリー・ニコラは言う。

 世界経済危機の衝撃は拡大し続け、ドバイ・ドリームの暗部のいくつかが表面に浮き上がりはじめている。レイオフの影響は、大量の労働者を送り出しているフィリピンやケニア、インドなどの社会にも及ぶだろう。近々、職を失った外国人労働者が何千人もドバイを離れることになる(この国では、失業した外国人労働者はすぐに滞在資格を失う)。

隣人アブダビの「策謀」

 一時の熱狂が嘘のように、不動産市場もすっかり冷え込んだ。まだ設計図段階の住宅の相場は、地区によっては50%近くも下落。金融機関は住宅融資を貸し渋るようになり、大規模開発プロジェクトは中断したり、規模を縮小したりしている。ドバイ政府が資金繰りに困り、国営エミレーツ航空の株式のかなりの割合を売却する羽目になるという噂も流れている。

 将来への不透明感と不安感は、金製品を商う業者が軒を連ねる歴史ある「ゴールドスーク(金の街)」でもはっきり見て取れる。この金ピカの街に、混乱の暗い影が差しているのだ。「金の価格が下落しているだけではない」と、金製品店のオーナー、フィロズ・マーチャントは言う。「すべてが不確実で、先がまったく見えない」

 暗いムードに駄目を押すかのように、11月ぐらいから港に大量の汚物が浮かぶようになった。排泄物を処理場に運ぶ途中で輸送トラックの運転手が渋滞に嫌気が差し、海に直結している配水路に捨てているというのが真相らしい。

 当局はドバイ経済への信頼を取り戻すために、「諮問委員会」を設置すると発表した。委員長を務めるモハメド・アラバーは、ドバイの都心に世界で最も高いビルを建てた不動産開発会社エマールの会長だ(もっとも、そのエマールの株価も昨年80%以上落ち込んでいるありさまなのだが)。

 ドバイ国際金融センターで講演した際にアラバーは、「ドバイの人間は現実主義者であり、楽観主義者でもある」と発言。聴衆(と世界)の不安を取り除くために情報開示を約束し、ドバイ政府と政府系機関の債務が総額800億ドルであることを公表した。しかし同時に、3500億ドルの資産を保有していることを強調。「断言しよう。政府は将来的に、すべての債務を返済する能力と意思がある」と請け合った。

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