最新記事

テクノロジー

ガソリン時代に取り残される米科学技術

高校レベルの数学も理解できない愚か者たちが、科学者の行く手を阻む

2009年11月12日(木)15時14分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

前世紀の遺物 石油とともにアメリカの時代は終わるのか Jim Young-Reuters

 9月下旬、私はジョン・ホルドレン米大統領補佐官(科学技術担当)ら代替エネルギーの権威たちの意見を聞くことができた。米競争力評議会が大企業の経営者や起業家、投資家などを集めてワシントンで開いた全米エネルギー・サミットに出席したのだ。

 科学技術の分野で世界のトップに立ってきたアメリカが、中国など諸外国に追い越される日も近い。会議の後で私はそう確信した。

 代替エネルギーは技術革新の新たな大波だ。この波に乗れなければ、米経済の勢いが衰え、安全保障が損なわれるだけでは済まない。アメリカは二流国家に転落するだろう。

 専門家たちの話を聞きながら、私は考えていた。「アメリカの時代は終わった」

 アメリカの科学者が無能なわけではない。彼らは優秀だが、障害が多過ぎる。テクノロジーの重要性を理解できない愚か者や、石油業界の回し者たちが科学者の邪魔をしようと手ぐすね引いて待っている。

ガソリン増税は政治的に不可能

 ホルドレンはマサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業し、スタンフォード大学で博士号を取得。核拡散や気候変動、代替エネルギー、人口増加に関する研究で多くの賞を受賞している。だが彼の前には、高校レベルの数学も理解できないくせに自分のほうが賢いと思っている面々が立ちはだかっている。

 保守派のトーク番組司会者グレン・ベックは7月、ホルドレンは人口増加を抑制するために飲料水に薬物を混ぜたり、女性に人工妊娠中絶を強いるべきだと考えていると発言。これはベックが人気取りのために口走ったたわ言なのに、愚か者たちの間からホルドレンの辞任を求める声が上がった。こうした愚行が科学者や政策立案者たちを及び腰にさせるのだ。

 9月に開催された全米エネルギー・サミットでパネルディスカッションの司会を務めた私は、ガソリン税についての意見をホルドレンに求めた。ガソリン税を上げれば、二酸化炭素(CO2)の排出量は減り、外国の石油への依存度が減り、風力や太陽エネルギーに対する投資が増えるだろう。ホルドレンは、税金は自分の専門ではないと言って、私の質問をかわした。

 ガソリン税を上げることは政治的に不可能だと言われている。だが、それが正しい選択なら簡単に引き下がるべきではない。ホルドレンのような全米屈指の科学者が自分の考えを自由に語れないようでは、未来は暗い。

 全米エネルギー・サミットのランチタイムに、アラスカ州選出のリサ・マーカウスキ上院議員(共和党)は自分の提出した法案に関するアピールを行った。発電所と製造会社は環境保護局が求めるCO2排出基準の遵守を免除されるという法案だ。彼女に言わせれば、その目的は経済への打撃を防ぐことだという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英ボーダフォン、通期中核利益2%増 ドイツ事業好調

ビジネス

楽天Gの1─3月期、純損失423億円 携帯事業の赤

ビジネス

英賃金上昇率、1─3月は前年比6.0% 予想上回る

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席と会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中