最新記事

米企業

アップルが米商工会議所から怒りの脱退

ナイキや電力大手やGEも?……名門経済団体から企業大脱走の理由

2009年10月8日(木)16時38分
ダニエル・ストーン

即日脱退 「政治的な強硬手段」に訴えたアップルの狙いは Mario Anzuoni-Reuters

 米商工会議所は、企業間で温室効果ガスの排出権を取引するキャップ・アンド・トレード方式を盛り込んだ温暖化対策法案にあからさまに反対してきた。 下院を通過し上院で審議中のこの法案が成立すれば、雇用は失われ経済活動は停滞し、引いては景気も悪くなると主張している。米環境保護局(EPA)の温室 効果ガス抑制策にも、同じ理由で反対してきた。

だ が、会員企業は必ずしも同じ意見ではないことが次第に明らかになってきた。300万社にのぼる有料会員の間に、商工会議所が提供するネットワークやロビー機能を捨てても脱退する大企業の数が増えているのだ。

 大脱走の口火を切ったのは、電力大手のPG&E。キャップ・アンド・トレード方式に対する商工会議所の「妨害工作」に抗議してのことだ。同じく電力大 手のPMNとエクセロンも後に続いた。商工会議所の役員企業だったナイキも辞めた。そして10月5日、アップルが同日付けで脱退すると発表した。

 アップルは、商工会議所に払ってきた会費の額を明らかにしないが、それがいくらであれ、商工会議所にとっていちばん痛いのは収入が減ることではなく、評判 に傷がつくことだ。温室効果ガスの排出削減が企業活動を阻害するという商工会議所の主張に、彼らが代表しているはずの当の会員企業が公然と反旗を翻し、報道資 料まで出し始めたのだから。

 商工会議所が有力会員の大脱走をどう見ているのかは、広報担当者がメディアの問い合わせに回答していないのでよくわからない。トム・ドノヒュー会頭の 名前で出された先週の声明では、排出削減をしたいのは山々だが、アメリカ経済や世界経済にとってマイナスなることならできないとされていた。
 

団体のイメージはガタ落ちに

 問題を放置すれば、脱走企業のリストは長くなるばかりだろう。当面脱退はしないとする医薬品大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)も、 今年に入ってドノヒューに書簡を送っている。その中でJ&Jは、商工会議所が一部の会員企業ではなく全会員企業を代弁するよう促し、これ以上緊張が高まればす でに危うくなっている両者の関係に決定的なヒビが入るだろうと警告した。

 GE(ゼネラル・エレクトリック)やシリコンバレーのサンノゼ商工会議所といった他の有力会員も、商工会議所が会員企業の温暖化対策に対する立場を正当に代表していないと公に発言している。

 商工会議所のイメージへの影響は「破壊的だ」と、危機管理広報の専門家、マリナ・アインは言う。「ここまできたら、会員企業は残らず商工会議所の指導力に疑問をもち、なぜもっと効率的な合意形成ができないのか不信に思い始めているだろう」

 危機管理コミュニケーションは通常、予期しなかった事態から始まる。だがこの場合、商工会議所はこの事態を予想するべきだった、とエインは言う。

(その後、商工会議所から本誌に連絡があった。彼らは、アップルの決断を「政治的な強硬手段」と呼んだ。ドノヒューはアップル経営陣に手紙を書き、「温 暖化に関する商工会議所の立場を理解しようとせず、21世紀の温暖化対策を前進させる機会を手放した」同社の行為に遺憾の意を伝えたという)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中