最新記事

アメリカ経済

夏休みバイトが見つからない大異変

不況のあおりで大人の失業者が夏休みの学生アルバイト市場に流入。はじき出された学生たちの将来が懸念されている

2009年8月17日(月)18時41分
ナンシー・クック

充電期間? 夏休みにごろごろして過ごすかバイトするかで、学生の将来は大きく左右される Eric Thayer-Reuters

 仕事を探しているすべての人にとって、この夏は残酷だ。特にしわ寄せを受けているのが十代の若者で、「夏休みバイト市場は1948年以降で最悪」とさえ言われる。
 
 店でモノを売ったりアイスクリームをすくったりする仕事は、何世代にもわたって多くの高校生の通過儀礼だった。ところが全米の失業率が9%を超えた今、バイトを探す学生には手ごわい競争相手がいる。学生向きの簡単な仕事に就くことさえいとわない、大人の失業者たちがライバルなのだ。

 夏休みに家でごろごろして過ごすしかないということ以外に、こうした状況は高校生や大学生にどんな影響を与えるのだろうか。収入がないばかりでなく職業技能も身に付かず、「将来就職しにくくなる」と、ノースイースタン大学(ボストン)労働市場研究センターのアンドルー・サム所長は言う。同センターの調査によると、高校・大学時代に働いた経験がある者は、そうでない者より給料が平均16%高い。

 やる気満々の学生やバイトの経験のある学生でも、この不景気ではバイトを見つけるのは難しい。シモンズ大学(ボストン)の2年生ケイトリン・バスコンセロス(19)は、この夏休みに帰省した。地元のマクドナルドで働いた経験があり、今回も近所のショッピングモールで簡単にバイトが見つかると思っていた。

 だが彼女は、履歴書を送っては確認の電話を掛ける作業に明け暮れた。「夏の間じゅう本当に大変な思いをした」と、携帯電話で取材に応じたバスコンセロスは言う。「どの店も夏以降も働き続けられる人を探していたけれど、私は大学に戻らないといけない」

バイトで学ぶ「ソフト・スキル」とは

 2カ月後、彼女はようやくサンドイッチとコーヒーの店「セシリーズ・カフェ」で仕事を見つけた。その店で数年間働いている友人のおかげだ。「両親にお金をせがみたくない。自分で責任を持ちたい。それに現金に余裕があるというのはいつだってうれしい」と彼女は言う。

 夏休みのバイトは長期的には高収入を稼ぎ出す能力につながるが、もっと重要なのは「ソフト・スキル」が身に付くことだ。ソフト・スキルとは、時間を守り、社会人らしいメールを書き、チームの中で協調して働くといった能力である。

「経営者がこうしたスキルを重視していることを裏付ける資料は多い」と、ノースイースタン大学のサムは言う。「働かないとしたら、同世代の学生や自宅のパソコンを通じて社会人としての作法を学ぶしかない。それは協調性を身に付けるには最悪の方法だ」

 14~24歳の青少年にソフト・スキルを習得させるため、多くの州は連邦政府の景気刺激予算をアルバイト紹介プログラムの資金に活用している。マサチューセッツ州でこうした公的プログラムを運営するベーラ・ギャラガーによると、1300人以上の応募者のうち、これまで650人が時給8ドルの仕事を見つけることができたという。

「若者に人生最初の職を紹介するのは素晴らしいこと。初めての給料をもらった子は態度に表れるので分かる」とギャラガーは言う。その使い道は「貯金する子もいるし、家計の足しにする子もいる」。

 この夏、幸運にもバイトを見つけることができた十代の若者には、うまく生きるコツを少しでも覚えてほしいし、就活の仕方も学んでほしい──サムはそう願っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物が小幅安、市場は対ロ制裁や関税を引き続き注

ワールド

米、メキシコ産トマトの大半に約17%関税 合意離脱

ワールド

米、輸入ドローン・ポリシリコン巡る安保調査開始=商

ワールド

事故調査まだ終わらずとエアインディアCEO、報告書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中