最新記事

金融

銀行危機に効く魔法のプラン

2009年4月7日(火)15時07分
ジョナサン・オルター(本誌コラムニスト)

買い取り価格が問題に

 第三の選択肢は官民共同ファンド(PPIF)。公的資金を使って不良資産を買い取る「受け皿」になるため、米連邦預金保険公社(FDIC)のシーラ・ベアー総裁は「受け皿銀行」計画と呼ぶ。ガイトナーの話によると、最大1兆ドルの不良資産を買い取る。

 第四の選択肢は「グッドバンク・バッドバンク」構想だ。政府が不良資産買い取り専門銀行を設立して、銀行の不良資産を完全に切り離す。この案はベン・バーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長が大筋で支持している。

 バッドバンクという名前は縁起が悪いので、「暫定銀行」プラン、あるいはホームズ案と呼びたい。資産運用会社幹部のマックス・ホームズが、2月1日のニューヨーク・タイムズでこの案を最初に示した。ホームズ案は一時話題になったが、やがて下火になった。修正案を再検討する必要がある。

 PPIFでは、少ない元手で複数の投資ファンドを設立。政府の融資を受けて、銀行の不良資産を競って買い取り、後に売却する。

 この投資ファンドの一つが10億ドルを調達したいとする。政府と大手プライベート・エクイティファンド(未公開株投資会社)もしくはヘッジファンドが1億ドルずつ、残り8億ドルをFRBが出す。FRBが取引を事実上保証することになる。こうしたファンドがとくに有毒な資産を格安で買い取れば、銀行は一時的に巨額の損失を計上するが、その後は成長して融資を再開することができる。

 妙案のようだが、大失敗する可能性もある。投資家が話に乗ってこないかもしれない。FRBは昨年11月、ターム物資産担保証券貸出制度(TALF)を導入。自動車ローンなどの融資を裏づけとした証券を担保に貸し出しを行う制度だが、投資家の反応は鈍い。

 不良資産の最大の問題は買い取り価格だ。他社のバランスシートなど誰も信用しない。銀行の言い値と投資家の買い値に大きな隔たりが生じるだろう。価格設定を市場に任せるのは正解だが、安すぎると銀行は売却しないかもしれない。そうなれば不良資産が帳簿に残り、貸し渋りが解消されない。

 FRBの支援が早計な買い取りにつながり、すべてが水の泡になるおそれもある。昨年9月にメリルリンチ買収をあわてて決めたバンク・オブ・アメリカよりもはるかに悲惨な事態が起きかねない。逆にデューデリジェンス(資産査定)を6〜9カ月かけてやっても、価格が決まらないかもしれない。

 そもそも大金持ちがほとんどリスクを負わずに借金をして投資し、さらに儲けるような案を売り込んでいいのだろうか。どこかで聞いた話ではないか。

 ホームズ案はPPIFと同じ要素も多いが、価格の問題では妙案を示している。まず四つのメガバンクそれぞれに対応する四つの連邦機関を新設する。これらの「暫定銀行」は不良資産を買い取るが、巨額の税金を使うことはしない。ここが重要だ。昨年秋に最初のバッドバンク構想が頓挫したのは、くず資産を買うのに莫大な費用がかかるとみられたからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月

ワールド

米朝首脳会談、来年3月以降行われる可能性 韓国情報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中