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「ハングリーであれ、愚かであれ」

ジョブズ、天才の素顔

暗黒のエネルギーも含め
彼を伝説たらしめたもの

2011.12.15

ニューストピックス

「ハングリーであれ、愚かであれ」

毎日を人生最後の日だと思って生きろ。死は生に変化をもたらしてくれる──膵臓癌を乗り越えたジョブズが05年のスタンフォード大卒業生に送った伝説のスピーチ

2011年12月15日(木)12時14分

 17歳のとき、こんな一文を読んだことがある。「毎日を人生最後の日だと思って生きれば、いつか必ずひとかどの人物になれる」

 この言葉に感動した私は、以来33年間、毎朝鏡に映った自分に問い掛ける。「もし今日が人生最後の日だとしたら、私は今日これからやろうとしていることを本当にやるだろうか」。答えが「ノー」の日が何日も続けば、何かを変える必要があると分かる。

 いつか死ぬ日は訪れると記憶にとどめておけば、人生で重要な選択をする際に大きな助けになる。周りの期待、自分のプライド、失敗や恥をかくことへの恐れなど、そんなものはすべて死の前では意味を成さなくなり、真に重要なことだけが見えてくるからだ。

 死期を感じておくことこそ、何かを失ってしまうかもしれないという恐怖の罠から逃れる最善の策だ。失うものなど何もないと分かれば、自分の心に従わない理由などなくなる。

 約1年前、私は癌だと診断された。朝7時半にCTスキャンを受けると、膵臓にはっきりと腫瘍が写っていた。医者は、ほぼ間違いなく治療できないタイプの癌であり、残された時間は3カ月から半年だと告げられた。家に帰り、身の回りの整理をしなさいとも言われた。来るべき死に備えなさい、ということだ。

 死の準備とは、わが子にこれから10年かけて話そうと思っていたことすべてを、たった数カ月で話すこと。自分がいなくなってから家族に迷惑が掛からないよう、身辺整理をきちんとすること。そして、みんなに「さよなら」を言うことだ。

 診断されたその日、私の頭からは「死」という文字が離れなかった。夕方になり、腫瘍の一部を採取して組織検査する生検が行われた。奇跡的に私の膵臓癌は手術で治癒できるタイプだった。手術で腫瘍を摘出した私は今、健康を取り戻している。

 これが、私が最も死に近づいた瞬間であり、あれ以上の経験はしばらく勘弁してほしいと願っている。だがあの九死に一生を得た体験があったおかげで、私は今ここで君たちに確信を持って言える。ただ頭の中だけで、死は人生の大きな助けになると思っていたときよりずっと確信を持って──。

自分の心と直感に従え

 死を望む人などいない。天国へ行きたい人だって、そのために死にたいとは思わない。それでも、死とは誰も避けて通れない道であり、そうあってしかるべきだ。なぜなら、死とは生が生んだ唯一かつ最高の発明だと言えるからだ。

 死は生に変化をもたらしてくれる。死は新しいものの道筋を開くために古いものを片付けてくれる。今この瞬間、君たちは「新」である。だがいつの日か、そう遠くない将来、君たちもだんだんと「旧」になり、消えてなくなる日が訪れるだろう。大げさに聞こえるかもしれないが、これが現実だ。

 君たちの時間は限られている。だから無駄にしてほしくない。ほかの誰かの人生を生きてはいけない。周りの雑音に自分の内なる声をかき消させないでほしい。そして一番大事なのは、自分自身の心と直感に従う勇気を持つこと。不思議なことに自分の心と直感は、自分が本当になりたい姿をよく分かっているものだ。

 私がまだ若い頃、『ホールアース・カタログ』という(ヒッピー文化の)出版物があった。私の世代にとってはバイブルのような存在だった。創刊されたのは60年代の終わり。パソコンのなかった時代で、出版の一連の作業がタイプライターとはさみとポラロイドカメラで行われていた。グーグルをペーパーバックにしたような本で、そのカタログは理想にあふれ情報量も豊富だった。

 最終号を迎えた70年代半ば、私はちょうど君たちぐらいの年だった。最終号の裏表紙は、朝焼けに映える1本の田舎道の写真だった。ヒッチハイクしているときに遭遇するような光景だ。そしてこう書いてあった。「ハングリーであり続けよ。愚かであり続けよ」

 それが最後のメッセージだった。これこそ、私がいつも自分に言い聞かせている言葉だ。今日卒業し、新しいスタート地点に立った君たちにも送りたい。

 ハングリーであり続けよ。愚かであり続けよ。

[2011年10月19日号掲載]

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