最新記事

震災取材はどうあるべきか

3.11 日本の試練

日本を襲った未曾有の大災害を
本誌はどう報じたのか

2011.06.09

ニューストピックス

震災取材はどうあるべきか

被災者取材に対する目は年々厳しくなっているが、取材側が萎縮することは結局は被災者のためにならない

2011年6月9日(木)09時57分
長岡義博(本誌記者)

 大災害の悲劇の記憶と、学んだ知恵を後世に伝える上でマスメディアによる報道は極めて重要なはずだ。しかし災害報道、特に発生直後の被災者報道に対する目は年々厳しくなっている。

「取材なんかしとる場合か!」。16年前の阪神淡路大震災当日、ようやく瓦礫の中から抜け出し呆然としている被災者に声を掛けようとして、筆者は怒声を浴びせられた。95年当時、取材の現場では「写真を撮っている暇があったら下敷きになった人を助けるべきではないか」という議論が記者やカメラマンの間で交わされた。しかし、結論はおおむね「取材に専念」だった。被害の現状を伝えることが、結局は被災者のためになる、という判断だ。

 その後、被災者取材に対する「制約」は強まるばかりだ。先月、ニュージーランドで発生した大地震で被災し、足を切断して生還した青年へのフジテレビのインタビューが「ぶしつけだ」と大きな批判を浴びた。「プロのジャーナリストとして話を聞くのは当然」と書いた筆者のブログは「炎上」した。

 メディアの取材に批判が集中する原因は、一義的にはメディアの側にある。特に阪神淡路大震災後、神戸の連続児童殺人事件や和歌山の毒物カレー事件で過熱取材が続き、メディアスクラムという言葉が広がった。過剰な取材の自粛も始まった。

 今回の東日本大震災では、阪神淡路の頃には想像もできないほど配慮された取材が行われている。避難所を訪れたあるNHKの記者は、「この取材は避難所の許可をいただいています」と宣言しながら、カメラと共に取材に入っていった。

 もちろん被災者の人権は最大限配慮されるべきだ。必死で家族を捜す被災者をカメラとマイクが追い掛ける取材は今回も行われている。ただ取材する側が過剰に萎縮したり、「被災者取材はしない」と一線を引くことは必ずしも被災者のためにならない。阪神淡路大震災で被災者が何より恐れていたのは、時間とともに自分たちが忘れられることだった。

「取材の線引き」は変化する

「取材しない」と一線を引けば、メディアの側にとってこれほど楽なことはない。不幸のどん底にある被災者に取材することほどつらいことはないからだ。興味本位で被災者にカメラやマイクを向ける者はいない。
「線引き」は時代とともに変わる。今回の大震災でも、ほとんどの記者は悩みながら現場で取材を続けているはずだ。それが最後は被災者のためになると信じながら。

[2011年3月30日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、対中石油輸出の拡大協議=ノバク副首相

ビジネス

午前の日経平均は反発、半導体関連に物色 早期利上げ

ワールド

原油先物ほぼ横ばい、ウクライナ和平協議を注視

ワールド

スーダンの準軍事組織RSFが休戦表明 国軍は拒否
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中