最新記事

中国の世界戦略に立ちふさがる「壁」

中国vs世界

アメリカ政治を脅かす怒れる民衆
中間選挙の行方は彼らの手に

2010.10.26

ニューストピックス

中国の世界戦略に立ちふさがる「壁」

経済力の次はソフトパワーで勝負——だが中国は文化の発信力や対外援助の面でまだまだアメリカに及ばない

2010年10月26日(火)12時00分
ヨアニス・ガツィオーニス

 現代の政治・経済とは、すなわち中国の台頭の物語──というのは、もう誰でも知っている。勢力の「不可避な」東方移動や「チャイナメリカ」時代の始まり、中国が世界を「支配」する近未来を告げる新著が毎週刊行され、大手メディア、とりわけ経済専門紙は中国の世界制覇という筋書きに夢中。フィナンシャル・タイムズ紙やウォールストリート・ジャーナル紙は中国の記事であふれている。

 だが、中国が国際社会を手中にするという論調はあまりに短絡的だ。グローバル大国としての中国がアメリカを超えるかどうかを論じる場合は特にそうだ。

 中国が外国のインフラ(社会基盤)建設計画に資金を提供する、中国企業が原材料への「貪欲な需要」を満たす契約を交わした──そんな話は山ほど報じられている。一方、欧米が同規模(またはそれ以上)の計画や契約に乗り出しても、メディアに取り上げられるのはまれだ。

 今の中国が大国の1つであることは確か。とはいえ重要な経済データ、あるいは文化的影響力や人道支援といったソフトな形の影響力に注目すれば、その力にはむらがあり、アメリカに勢いをそがれがちなことが見えてくる。

 中国とアフリカや中南米との貿易は急増しているものの、アメリカの貿易拡大ペースはそれを上回り、貿易の範囲も広い。アジア諸国にとって中国は今や最大の貿易相手国だが、取引されるのは低価格製品が中心。高価格製品の取引を独占しているのはアメリカだ。

経済だけでは覇権は遠い

 アメリカがこうした地域に対して行う援助や直接投資の規模はいまだに中国をしのぐ。近年の中国はソフトパワーを強化しているが、この分野でもアメリカの独り勝ち状態は続いている。

「経済的影響力だけで世界の覇権を握った国は存在しない」と指摘するのは、ケニアの週刊紙イーストアフリカンなどに寄稿するウガンダ出身のジャーナリスト、チャールズ・オニャンゴオボだ。「アメリカが覇権国になったのは教育、テクノロジー、(ハリウッド映画や音楽などの)文化、ビジネスやスポーツの力のおかげだ。中国は国際社会にとって極めて重要な国になるはずだが、覇権国家になることはない」

 そのことを何より鮮明に表しているのがアフリカの現実だろう。この地域において、中国は資源獲得をめぐる「新植民地主義」の賢い勝者と言われている。

 中国は欧米のように人権尊重を交換条件とせずに、アフリカに低価格製品の提供やインフラ投資、融資条件の緩い借款といった形の開発援助を行っている。その見返りとして、自国の経済成長の原動力である原材料を手にしている。

 昨今のアフリカで中国の存在感が急激に強まっているのは明らかだ。しかしサハラ砂漠以南のアフリカでは、アメリカが最大の貿易相手国である事実に変わりはない。アフリカ全体の貿易にアメリカが占める割合は15%。一方の中国は10%だ。

 中国の対アフリカ貿易の大部分は域内5カ国からの原油輸入が占めるが、その原油分野でもアメリカは優位を保っている。アフリカ産原油の17%が中国に輸出される一方で、アメリカ向けの割合は29%に上る(ヨーロッパは35%)。サハラ以南アフリカで最大の産油国ナイジェリアでは、石油プロジェクトの提携相手となる外国企業は欧米系が最多。新興産油国のガーナやウガンダでも同様だ。

 こうした傾向は今後も続くかもしれない。一因は、中国がアフリカ全土で展開しているエネルギー開発やインフラ整備計画で、汚職や手抜き工事の疑惑がいくつも取り沙汰されているからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中