最新記事

6カ国協議 北朝鮮が核を手放す可能性は限りなく低い

北朝鮮 変化の胎動

強まる経済制裁の包囲網
指導者の後継選びは最終局面に

2010.09.17

ニューストピックス

6カ国協議 北朝鮮が核を手放す可能性は限りなく低い

核交渉を再開しても進展の見通しは暗い。そもそもどこから話を再開すればいいのか分からないからだ

2010年9月17日(金)12時03分


 健康不安や後継問題もあって、「親愛なる将軍様」の金正日(キム・ジョンイル)も、さすがに最近は気がめいっている様子らしい。

 しかし、核問題については相変わらず強気だ。08年12月以来、北朝鮮の核問題を話し合う6カ国協議は止まったまま。北朝鮮は09年にミサイル発射実験と2度目の核実験を強行。さらにはもう1つの核計画、濃縮ウラン計画も進めており、核兵器を弾道ミサイルに載せる技術の開発を進めている。

 北朝鮮の脅威は強まっているのに、なぜ協議が再開されないのか。理由は2つある。1つ目は、北朝鮮が交渉復帰の条件としてムチャな要求をしていること。国際社会から加えられている制裁の解除や、アメリカが国交正常化や平和条約を視野に入れた交渉に応じるよう求めている。

 そもそも北朝鮮が核にこだわっているのは、1950年代の朝鮮戦争以来、アメリカから再び攻撃されるのでは、と怯えているから。アメリカと北朝鮮は休戦協定しか結んでいないため、厳密にはまだ戦争が続いている。アメリカと平和条約を結ぶ見通しが立たない限り、北としては核を捨てるつもりがない。その立場で、協議に戻る意味がないとしている。当然、アメリカにしてみれば簡単にのめる要求ではない。

交渉再開でも進展なし?

 2つ目の理由は、アメリカ側の交渉担当者がより慎重な人物と代わったから。現在のスティーブン・ボズワース特使は北朝鮮問題に精通しており、目立ちたがり屋の前任者クリストファー・ヒル元国務次官補と比べて同盟国の立場を大切にしていて、安易に北朝鮮の要求に応じようとしていない。成果を出そうと焦っていたヒルは北の口車に乗せられ、日米にとって不利な条件をのんでしまった経緯がある。ボズワースは、ヒルと同じ轍を踏まないよう、慎重になっているのだ。

 ただ、6カ国協議議長国の中国からしてみれば早く成果を出したいところだろう。中国は今年、北朝鮮に対して「1950年代以来最大の経済支援」を送るつもりらしい。北朝鮮が国際的な制裁による圧力を気にせず、6カ国協議に安心して戻れるようにするのが中国の狙いだ。

 ただ、交渉を再開しても進展の見通しは暗い。そもそも、どこから話を再開すればいいのか分からないからだ。これまでの流れを振り返ると、6カ国協議は05年、北朝鮮の核問題を「平和的に解決する」という方向性について合意した。以降、この目標を達成するための具体的な手順について話し合ってきた。

 08年には、参加国がエネルギー支援をする代わりに北朝鮮が寧辺にある核施設を「無能力化」するところまでにこぎ着けた。しかしその後、北朝鮮が保有している核物質や核兵器の量を検証するための方法をめぐって協議が紛糾し、08年末に6カ国協議が膠着状態に陥った。北としては、核の保有量を曖昧にして交渉を有利に進めたい思惑がある。

 以来、6カ国協議が1度も開かれていないどころか、北朝鮮は核やミサイル実験を行い、「無能力化」した核施設の復旧に動いた。

 こうなった以上、05年以降に6カ国で合意した段取りがまだ有効なのかも分からない。しかも北朝鮮の核能力は以前よりも高まっているため、核放棄のための対価をつり上げてくる恐れもある。

 北朝鮮が核を手放す可能性はどんどん小さくなっている。金正日にしてみれば、高笑いが止まらないシナリオだろう。

[2010年4月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月

ワールド

米朝首脳会談、来年3月以降行われる可能性 韓国情報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中