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2010.06.11

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国父マンデラという呪縛

就任100日を迎えたポピュリスト大統領ズマは「マンデラ度」ではなく統治の結果で評価されるべきだ

2010年6月11日(金)12時02分
イブ・フェアバンクス

愛嬌たっぷり 4人目の妻との結婚式でズールー人の伝統的なダンスを踊るズマ(08年1月) Reuters

今年5月に就任した南アフリカの踊るポピュリスト、ジェイコブ・ズマ大統領。8月15日には就任100日目を迎えたが、特別なイベントなどは企画されなかった。ブルームフォンテーンという静かな町の郊外で集会を開き、アフリカーナー(南アの白人主流派)のビジネスマンと市庁舎で会合を開いただけだった。

 それでも意外な収穫があった。ズマという人物の正体を垣間見られたからだ。「大した実績のない彼の人気が、就任後に急上昇したのはなぜか」という問いへの答えが見つかったと言ってもいい。

 市庁舎での会合で、ある参加者はズマのテーマソング「ウンシニ・ワム」について皮肉っぽいジョークを飛ばした。ズマが選挙集会で歌に合わせてクネクネと腰を振る姿は、何よりも彼の不安定さを白人たちに感じさせた、と。

 しかしズマは、懐の深い男だ。ジョークを飛ばした人物に対し、オフィスに戻ったらすぐにこの歌を、彼らの言語であるアフリカーンス語に訳させて、一緒に楽しめるようにすると約束した。

 これこそズマだ。魅力的で融和的で、古い分裂を愛嬌たっぷりに否定する。だが、これは彼自身が編み出した技ではない。ネルソン・マンデラ元大統領のやり方をまねているにすぎない。

 マンデラは南アフリカ国民の間で特別な地位を占めている。国の解放者であり、救世主であり、要するにリンカーンとワシントンを一緒にしたような存在だ。

 しかしマンデラの独創的なスタイルは、後継者たちに過大な期待を背負わせることになった。歴代の法王にイエス・キリスト並みの力を期待するに等しい。

 それだけではない。南アフリカ国民は、大統領に何かを成し遂げることだけでなく、国民に癒やしをもたらす役目をも求めるようになった。だからマンデラ以降の大統領は、いかにマンデラに似ているかで評価されざるを得ない。

懐疑論者も引き付ける

 その点で、ターボ・ムベキ元大統領が失脚した一因は、イメージ戦略の失敗にあったとも言える。政権がマンデラからムベキに受け渡された99年には、既に政権の役目は国民の心を癒やすことよりも具体的な政策に移っていた。

 例えば、新政権が導入した経済改革計画に黒人も参加させること。実際、この改革で経済成長が実現でき、政府の借金とインフレ率を減らすこともできた。

 しかし当時の国内メディアは、ムベキには国民を癒やす能力がないという批判を大々的に繰り広げた。「マンデラには温かみと寛容さが感じられたが、ムベキはずる賢く、打算的なように見える」。地元紙サンデー・タイムズは社説で、ムベキをそう非難したものだ。

 対するズマには、ムベキに欠けていた自然な自信やマンデラ的な優しさがあふれている。5月の就任式では、冷淡で官僚的だったムベキ流からの決別を示唆し、自分はマンデラが示した手本に従う、それができているかどうかで自分を評価してくれと訴えた。

「マディバ(マンデラの愛称)はわれわれの傷を癒やし、常に毅然として『虹の国家』をつくり上げた」とズマは語った。「彼の中心テーマは和解。われわれもその建国の大義から外れることはない」

 新大統領はこうした姿勢を忠実に守ってきた。そのせいか、先の会合に参加したアフリカーナーたちも完全にズマに魅了された。大統領が「ウンシニ・ワム」をアフリカーンス語に訳すのを手伝おうと申し出る人もいた。ズマの人気を高めているのは、こうしたマンデラ的な瞬間だ。

 ノーベル平和賞受賞者で、ズマ懐疑論で有名な元大主教デズモンド・ツツまで考えを改めつつある。「彼はムベキより楽に人々に共感を持たれる」と語り、「彼には生まれ持っての優しさがある」とも付け加えた。これは、もっぱらマンデラを形容する際に使われてきた表現である。

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