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2010.03.03

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マンデラがラグビーに託した融和の夢

歴史を変えたマンデラの「あの日」を描いた『インビクタス』が教えるもの
(モーガン・フリーマンが主演男優賞、マット・デイモンが助演男優賞にノミネート)

2010年3月3日(水)12時35分
デービッド・アンセン(映画ジャーナリスト)

マンデラ(フリーマン)はラグビーで黒人と白人の心を1つにした ©2009 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.

 95年に南アフリカで開催されたラグビー・ワールドカップ(W杯)の決勝戦。それがクリント・イーストウッド監督の最新作『インビクタス/負けざる者たち』のクライマックスだ。

 しかしこの作品は、よくあるスポーツ映画とは違う。試合で決まるのは優勝杯の行方だけではない。アパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃後の南アが1つにまとまるか、それとも人種によって引き裂かれるかが決まるのだ。

 ネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)は27年に及ぶ獄中生活で白人の看守たちを観察し、スポーツが国民の愛国心に強い影響を及ぼすことを悟る。

 南アのラグビー代表チーム「スプリングボクス」は、お世辞にも一流とはいえないチームだった。それでも白人たちには熱狂的に愛され、黒人たちには抑圧の象徴として徹底的に嫌われていた。

 チームを解体して名称も変えるべきだ----マンデラの支持者たちはそう主張した。だがマンデラはその要求を突っぱねる。そんなことをすれば白人たちの不安をあおるだけだ。ラグビーを通じて人種間の亀裂に橋を架けることを決意し、代表チームのキャプテン(マット・デイモン)に協力を求める。

 『インビクタス』は伝記映画ではないし、登場人物が深く掘り下げられているわけでもない。この映画で重要なのは、マンデラの直感的な戦略がこの国にいかに大きな変化をもたらしたか、だ。

 フリーマンは人間的な魅力にあふれ、穏やかで厳粛な語り口のマンデラを見事に演じている。アンソニー・ペッカムの骨太の脚本は、やや鼻につくが(メッセージ性の強い挿入歌もやり過ぎだ)、魂を揺さぶる物語の前ではそんな欠点も気にならない。

 『インビクタス』のすごいところは、このフィクションのような物語がすべて実話であることだ。

[2010年3月10日号掲載]

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