最新記事

グーグル安全神話の崩壊

クラウド化知的生産革命

仕事の効率化から「知」の創造まで
新世代コンピューティングの基礎知識

2010.02.04

ニューストピックス

グーグル安全神話の崩壊

グーグルへの中国サイバー攻撃問題で、クラウド・コンピューティングの意外な弱さが露呈した

2010年2月4日(木)12時02分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

揺らぐ信頼 都合よく発言を翻すグーグルに、本当に重要なデータを任せられるのか Jason Lee-Reuters

 世の中はクラウド化に向かっている----IT専門家はそう言い続けている。クラウドとはクラウド・コンピューティングのこと。ユーザーがデータを自分のパソコン内ではなく遠く離れた場所にあるサーバー上に保存するというシステムだ。

 クラウド化にはいくつかの利点があるが、なんといっても優れているのは、どのファイルが自宅のマックに入っていてどのファイルを会社のデルに入れたのか把握しておかなくてもいいとうところだろう。

 だが、グーグルが検閲やサイバー攻撃を理由に中国からの撤退を示唆している騒動で、クラウド化の決定的な問題が明るみに出た。データが安全ではないということだ。

 クラウドは完全に安全だとグーグルは主張する。クラウド化で商売をしようとしているのだから、そう言うのは当たり前だろう。

 グーグルは、ワープロソフトや表計算ソフトを含む一連のオンライン上のプログラム「グーグル・アップス」を、マイクロソフト・オフィス以上に優秀で安価な代用品として売り出している(データはグーグルのサーバーに保存される)。さらに、従来のメールサーバーを利用するよりも安く便利に使えるとして、自社のGメールを勧めている。

自社の知的財産すら守れないのに

 グーグルがそれほど安全ならば、なぜ中国のハッカーは同社のサーバーに侵入して知的財産を持ち出すことができたのか。グーグルは盗まれた情報の詳細を明らかにはしないが、自社の知的財産も守れないような会社が、どうやってユーザーのデータを守れるというのだろう。

 サイバー攻撃によって消費者のグーグルに対する信頼は高まったと、同社の広報は主張する。「アップスの顧客の多くと話したが、彼らはこれほど高度な攻撃を切り抜けた我々の能力に感心しただけでなく、我々の透明性にも満足していた」

 ほとんどすべてのIT企業は、クラウドの流れに乗りたがっている。グーグルはすでに通信大手モトローラやロサンゼルス市を含む200万件の顧客を獲得。IBMやEMC、オラクルなどもクラウド戦略を立てている。ネット小売り大手アマゾンが展開するクラウドのビジネス「アマゾン・ウェブサービス」も成長中だ。マイクロソフトとヒューレット・パッカードもクラウドで提携し、2億5000万ドル規模の投資を行うと1月14日に発表した。

 こうしたIT大手は、コンピューターの処理能力や記憶容量を、インターネットを通じてユーザーに貸し出そうと考えている。そうすれば企業は自社でデータセンターを運営する必要がなくなり、公共の電気代を支払うのと同じようにITサービスを購入するという形になる。

 電力とITの比較は(昔は各社が自社で発電していものだったが、今では公共の電気を買うのが普通だ)、クラウドに関する包括的な比喩だ。IT専門家ニコラス・カーの著書『クラウド化する世界』ではそう説明されている。

 カーは優秀な男だが、この比較には明白な問題がある。情報は電力とはまったくの別物だ。電気は安くてありきたりの商品。誰も他人の電気を盗もうとなどしないし、もし盗まれても気にする人もいないだろう。一方で情報は、企業にとって何より貴重なものかもしれない。

 カーの主張によれば、グーグルなどクラウドビジネスのプロバイダーは完璧に安全だと保障することはできないが、それでもおそらく普通の会社が自社サーバーをハッカー攻撃から守るよりは上手に攻撃をかわせるだろうという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中