最新記事

ファラ・フォーセット(アメリカ/女優)

今年を駆け抜けた人に
さようなら

世界に大きな影響を与えた
著名人・スターの軌跡

2009.12.08

ニューストピックス

ファラ・フォーセット(アメリカ/女優)

『チャーリーズ・エンジェル』のセックスシンボルはタフな社会派女優だった

2009年12月8日(火)12時04分
マーク・パイザー(テレビ担当)

 あの豊かなブロンドが目に焼きついている。真っ白な歯が輝く笑顔も、セックスシンボルという言葉にふさわしい水着姿のポスターも。

 アメリカ人女優のファラ・フォーセットが6月25日、癌の合併症のためカリフォルニア州サンタモニカで亡くなった。62歳だった。

 その名を知らしめたのはもちろん、76年からABCテレビで放送されたテレビドラマ『地上最強の美女たち! チャーリーズ・エンジェル』。フォーセットは1シーズンのみの出演だったにもかかわらず大スターになった。

 なのにその後に挑んだ企画はことごとく鳴かず飛ばず。しかし、そのままでは終わらなかった。83年、オフブロードウェイの舞台『エクストリミティーズ』の主役を演技派女優スーザン・サランドンから引き継いだ。アパートに押し入った男に身体的な虐待や言葉の暴力を受けながら、最後にはベルトやコードなどあらゆる物を使って反撃する女性マージョリーの役だ。

 80年代前半のアメリカでは犯罪が多発していた。毎日のようにレイプ事件が報じられ、女性への暴力に対する抗議運動が全土に広がりつつあった。フォーセットがステージに立った83年には、マサチューセッツ州で女性がビリヤード台の上で集団暴行される事件が発生。これは88年の映画『告発の行方』になり、主演のジョディ・フォスターはオスカーを手にした。

 フォーセットはマージョリーを通して、女性が最悪な状況を生き抜く姿を見せた。女性の観客は愛らしくてか弱そうなフォーセットが、劇中とはいえレイプ犯をやっつけられるなら、自分たちにもできるかもしれないと思ったものだ。

 彼女の演技は絶賛された。もはやフォーセットは水着姿を売りにする軽い女優ではなかった。その後、テレビ映画『バーニング・ベッド』では何年も続く夫の虐待に毅然と立ち向かう妻を好演した。

 この作品はおそらくドメスティック・バイオレンス(DV)被害のホットラインの番号を流した初のテレビ映画だろう。内容も力強く、DVと戦うイメージが定着したフォーセットは後に全米DV・ホットラインの役員にもなった。
 テレビ映画には感傷的なものが多いが、時に骨太な作品にお目にかかれるのはフォーセットが果敢に挑んだ『バーニング・ベッド』のおかげかもしれない。

 最後の「作品」にも彼女の心意気が見て取れた。勇敢にも癌との闘病を公表したのだ。肛門癌だった。美しさで世間を魅了するハリウッド女優で、この病名を明らかにできる人はそうはいないだろう。
 闘病生活を記録したドキュメンタリー『ファラの物語』がテレビ放送される前は、金儲けのために私生活を売るのかと批判する声もあった。しかし必死に治療を受ける壮絶な様子が映し出されてからは、そうした見方は変わった。

 フォーセットは最後までタフな女性だった。きゃしゃで美しい外見から想像するよりもずっと。

[2009年7月 8日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中