最新記事

トゥシサ・ラナシンゲ(スリランカ/環境)

社会起業家パワー!

社会貢献しながら利益も上げる
新世代のビジネスリーダーたち

2009.10.13

ニューストピックス

トゥシサ・ラナシンゲ(スリランカ/環境)

リサイクルの切り札は象のフン

2009年10月13日(火)11時34分
ロン・グラックマン

 何十年も紛争が続くスリランカ。一時的な休戦はあるものの、解決への道筋はまったく見えない。だがトゥシサ・ラナシンゲ(40)は、スリランカで続くもう1つの「戦争」を終わらせる究極の策を編み出した。彼の武器は象のフンだ。

 象はアジアのいたるところで、森林開発を進める農民によって居場所を追われてきた。なかでもスリランカほど、象と人間の争いが熾烈な地域はない。

 地元の動物学者ゲハン・デ・シルバ・ウィジェイェラットネによれば、作物を守ろうとして象に殺されるスリランカ人は年間60人にのぼる。もっとも逆のケースはもっと多く、毎年120頭の象が人間の手で殺されているという。

 そこで、ラナシンゲは象と人間の双方にメリットのある解決策を編み出した。まず、彼が設立したマキシムス社が地元住民を雇い、象のフンを集めさせる。そのフンをほかの廃棄物と混ぜ合わせて高品質なリサイクル紙を作り、グリーティングカードなどにするのだ。

 もっとも、このアイデアは当初、誰にも相手にされなかった。印刷業を営んでいた彼の家族も皆、懐疑的だった。「みんな、私の頭がおかしくなったと思っていた」と、ラナシンゲは笑う。

象の付加価値を高めて命を救う

 きっかけは、象のフンから紙を作るケニア人についてのテレビ番組を見たこと。実際、ラナシンゲに言わせれば、象のフンは理想的な素材。象の食べた草と葉が、紙に独特の素材感を加えるからだ。

「どんな臭いがするのかと、いつも最初に聞かれる」と、ラナシンゲは笑う。実際には、10日間かけてフンを洗浄し、沸騰させたうえで混ぜ合わすので、臭いはしない。「この製法に行き着くまでに9カ月近くかかった」

 約10年前、7人の従業員とともに立ち上げたマキシムス社は、今では3つの工場と150人の従業員をかかえる。さらに、タミル人が独立を求めて戦う紛争地域の真ん中に4つ目の工場を建てる計画もある。「紛争解決のためだけではない」と、彼は言う。「人間と象を守りながら、発展のためにみんなで働くことが大切だ」

 おかげで最近では、象が資源として認識されるようになりつつある。「フン紙」の利益は多くはないが、そんなことは問題ではない。象の付加価値を高めることこそ、ラナシンゲの目標だ。

「今ではみんな理解してくれる」と、ラナシンゲは自信たっぷりに言った。「私たちが説得しているんだ」

[2007年7月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「サナエノミクス2.0」へ、総裁選で自動車税停止を

ビジネス

自民新総裁で円安・株高の見方、「高市トレード」再始

ワールド

アングル:高市新総裁、政治空白の解消急務 「ハネム

ワールド

自民新総裁に高市氏:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 4
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 5
    謎のドローン編隊がドイツの重要施設を偵察か──NATO…
  • 6
    「吐き気がする...」ニコラス・ケイジ主演、キリスト…
  • 7
    「テレビには映らない」大谷翔平――番記者だけが知る…
  • 8
    墓場に現れる「青い火の玉」正体が遂に判明...「鬼火…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 10
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 6
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 7
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 9
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中