コラム

偵察機もポイっ! トランプ最後の火遊びはまるで焦土作戦(パックン)

2020年12月16日(水)18時35分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

©2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<焦げ臭いワクチン確保、経済対策、外交、安全保障、民主主義をバイデンは「気にイラン」>

会社など組織内で余計なトラブルを起こし、他人に片付けさせることは英語でset fires(火を付ける)という。退任間際のドナルド・トランプ米大統領は似たようなことをやっている。しかし、その数と規模を見ればまるで焦土作戦のようだ。

新型コロナウイルス対策を急ぎたいところなのに、トランプは支持者が何千人も密集しマスクなしで叫び合う集会を催し続ける一方、ワクチンの確保を怠っている。

経済対策も急ぎたいが、やっと共和・民主両党が見つけた妥協案に政権は反対している。さらに、スティーブン・ムニューシン財務長官は既に出ている緊急経済対策の予算を、次期財務長官が議会の許可なしに使えないようにした。つまり、消防士が向かっている火事現場の消火栓に鍵を掛けたのだ。

外交においても足を引っ張る作戦のようだ。マイク・ポンペオ国務長官は11月のイスラエル訪問中に、ヨルダン川西岸を訪れてイスラエルの支配権を強調。バイデンが目指すパレスチナとイスラエルの和平交渉再開はさらに難しくなった。

同時期にポンペオはアラブ諸国も歴訪し、イラン「包囲網」を固めた。その直後、イラン核開発の父と呼ばれる科学者が暗殺された。イスラエルの仕業だとされるが、米政権に連絡なしでやるはずはない。真相はどうであれ、イラン核合意の復帰も遠のいたはずなので、バイデンは気にイラン、だろう。

安全保障にもトランプは爪痕を残そうとしている。対立国も含めて領空の相互監視を認めるオープンスカイ条約からアメリカを離脱させた上、なんと偵察機も廃棄することにした。特殊な飛行機なので、処分したら代替品はすぐ手に入らない。

そして最後は、民主主義における火遊び。根拠なしに選挙不正を主張したり、選挙結果を承認しないように選挙管理委員に圧力をかけたり、バイデンが勝ち取った州でも、州知事に自分に投票する選挙人を選ぶよう働き掛けたりするトランプは民主主義の根幹となる選挙への信頼を揺るがしている。風刺画が指摘するとおり、憲法に火を付けるような行為だ。

出演していたテレビ番組で、トランプはYou're fired!(おまえはクビだ)が口癖だった。選挙でクビになったのはトランプだが、彼はバイデンに同じセリフを言っているようだ。「クビだ」ではなく「火を付けたぞ!」という意味でね。

【ポイント】
THE PASSING OF THE TORCH
トーチの受け渡し

WE THE PEOPLE
われわれ人民は(アメリカ合衆国憲法前文の出だし)

<本誌2020年12月22日号掲載>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NZの10年超ぶり悪天候、最悪脱する 首都空港なお

ワールド

日米2回目の関税交渉、赤沢氏「突っ込んだ議論」 次

ワールド

原油先物が上昇、米中貿易戦争の緩和期待で

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時500円高 米株高や円安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story