コラム

トランプはなぜ懲りずに兵士の侮辱を繰り返すのか(パックン)

2020年09月26日(土)15時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Soldiers, Sailors and a Faker / (c)2020 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<命を張って国のために戦った人々を「負け犬」と呼ぶトランプだが、自身は「健康上の理由」でベトナム戦争の徴兵を免除されている>

人種差別への抗議として taking a knee during the national anthem(国歌斉唱中にひざまずくこと)は disrespects the troops!(われわれの兵士を侮辱する!)と、トランプはこれまで憤ってきた。

しかし風刺画では、戦没者を慰霊する Arlington National Cemetery(アーリントン国立墓地)でひざまずきつつ墓石に書き込んでいるのは Loser(負け犬)や Sucker(めでたい奴)という侮辱。さらに、手に持っているのは、以前ハリケーンの進路予想図を勝手に書き換えた疑惑が取り沙汰されたときにトランプが用いたとされるSharpieという油性ペン......。超細かい風刺だ!

同じく米軍の戦没者慰霊墓地がパリの近くにあるが、トランプはそこで眠っている人々は「負け犬ばかりだ」と、2018年に訪問することを拒否した。命を張って国のために戦った人々への評価として、これがトランプの定番のようだ。

第2次大戦中に撃墜されたある有名なパイロットも「負け犬」。違うパイロットはベトナム戦争中に撃墜され、また拷問もされながら5年以上捕虜として耐えたにもかかわらず、「彼も『負け犬』」と、繰り返し国家的な英雄たちをけなしている。ちなみに、前者はジョージ・ブッシュ元大統領。後者は08年の共和党大統領候補で元上院議員のジョン・マケイン。負け犬にしてはそこそこ成功している2人だ。

大統領の残念過ぎる一連の発言を最近報じたアトランティック誌の記事に寄せられた情報は全部匿名だった。それをもってトランプ陣は「フェイクニュース」と記事を否定している。しかし、「トランプは息子に『入隊したら絶縁する』と脅した」とトランプの姪のメアリー・トランプが伝えたように、匿名じゃない同種類の情報も大量にあるし、トランプ本人がマケインや戦没者の家族をばかにする映像は普通にYouTubeでご覧いただけます。Sharpieを使ってもその過去は書き換えられない。

不思議にも、繰り返し兵士をばかにするトランプ自身、実は軍に入っていたそうだ。いや、ベトナム戦争に行ったりはしていない。確かに徴兵対象の世代だが免除された。「史上最も健康体の大統領」だと主張し、昔はプロになるはずの「ニューヨーク最強の野球選手だった」と自慢するトランプだが、意外にも健康上の理由で免除だ! ヤンキースの誰よりも身体能力の高かった彼は徴兵されそうなときにだけ足に「骨棘(こつきょく)」が現れたようだ。入隊アレルギーかな。かわいそう。

トランプが「軍に入っていると感じる」と、自ら言うのは、軍隊式教育の高校に通っていたからだという。ちなみに、僕も軍に入っていると感じるよ。ときどき軍手をはめるし、好きな色はネービーだから......。

<本誌2020年9月29日号掲載>

<関連記事:トランプの嘘が鬼のようにてんこ盛りだった米共和党大会(パックン)
<関連記事:トランプ支持の強力なパワーの源は、白人を頂点とする米社会の「カースト制度」

20200929issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月29日号(9月23日発売)は「コロナで世界に貢献した グッドカンパニー50」特集。利益も上げる世界と日本の「良き企業」50社[PLUS]進撃のBTS

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NZの10年超ぶり悪天候、最悪脱する 首都空港なお

ワールド

日米2回目の関税交渉、赤沢氏「突っ込んだ議論」 次

ワールド

原油先物が上昇、米中貿易戦争の緩和期待で

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時500円高 米株高や円安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story