コラム

気候変動や銃規制の問題に立ち向かうには「子供のようにならなければ......」(パックン)

2019年10月19日(土)13時10分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Today's Young Prophets / (c) 2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<世界の大人たちに気候変動への「本気」の取り組みを求めた16歳のグレタの訴えは、大きな話題を呼んだ>

ロン毛にひげ。といえばイエス様だね。風刺画のセリフは新約聖書のマタイによる福音書からのお言葉。Truly I say unto you(はっきりと伝えておこう)と弟子の耳を引き付けてから、unless you change and become like little children(心を入れ替えて、小さな子供のようにならなければ)と続く。聖書では、この後は You will never enter the kingdom of heaven(決して天国に入ることはなかろう)となるが、風刺画では You're all screwed!(おまえら、とんでもない目に遭うぞ)と、少し下品な俗語で警告している。ほら、だてに比較宗教学部を卒業していないよ、僕は!

イエス様のそばには「地球を救え!(Save Our Planet!)」とか「銃の暴力を今すぐ終わらせて!(End Gun Violence Now!)」と呼び掛ける子供たちがいる。三つ編みの少女は16歳のスウェーデン人活動家、グレタ・トゥーンベリちゃんっぽい。彼女は9月の国連気候行動サミットでスピーチしたことや、そのために飛行機より環境に優しいヨットで大西洋を渡ったことが大きな話題を呼んだ。小さな話題を呼んだのは、ヨットの乗組員はニューヨークに着いたら飛行機で帰国したことや、復路担当の乗組員がニューヨークまで飛行機で来たこと。結局、子供の船旅のために複数の大人が飛行機に乗っているのだ。

眼鏡の子はおそらくフロリダ州パークランドの高校生。彼らは昨年2月の銃乱射事件で17人もの仲間が撃ち殺された後、全国に広まる運動を起こした。グレタと同じように、同志の学生を集めて、銃規制を求める大規模なデモ行進をワシントンで行い、多くの州法改正につなげたといわれる。

グレタの影響は世界中に及ぶ。ストライキを呼び掛け、平日の昼間に185カ国で数百万人規模の「不登校デモ」を起こした。温暖化の真の被害者である若者にとって、大人の意識を高めながら、学校もさぼれる最高の運動だ。

少しちゃかしている僕だが、子供の運動家を心から応援している。イエス様もそうだろう。上記の言葉の直後に「子供をつまずかせる者は、大きな石臼を首に掛けられ、深い海に沈められたほうがましだ」と言っている。宗教に関係なく、グレタたちが成功するように祈るしかない。彼女たちがつまずいたら、石臼を掛けられなくても海水面の上昇でみんな沈んじゃうかもしれないから。

銃による被害は地理的に限定されるが、規制強化を願いたい。でも、アメリカの銃愛好家は手ごわい相手。彼らが言うには、自己防衛のために欠かせない。イエス様だって銃を持っていたら磔(はりつけ)にはされなかった、とか言いかねない。

<本誌2019年10月22日号掲載>

20191022issue_cover200.jpg
※10月22日号(10月16日発売)は、「AI vs. 癌」特集。ゲノム解析+人工知能が「人類の天敵」である癌を克服する日は近い。プレシジョン・メディシン(精密医療)の導入は今、どこまで進んでいるか。


プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NZの10年超ぶり悪天候、最悪脱する 首都空港なお

ワールド

日米2回目の関税交渉、赤沢氏「突っ込んだ議論」 次

ワールド

原油先物が上昇、米中貿易戦争の緩和期待で

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時500円高 米株高や円安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story