コラム

習・プーチンの「150歳問答」と、始皇帝から続く「不老長寿」夢

2025年09月27日(土)18時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
習近平

©2025 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<9月の北京の軍事パレードでの習近平とプーチンの「150歳問答」は世界を驚愕させた。しかし中国における最高指導者の「不老不死」願望は今に始まったことではない>

9月3日に北京で開催された抗日戦争勝利80周年記念の軍事パレードで、ネット上の話題を呼んだのは新型兵器ではなく、習近平国家主席とロシアのプーチン大統領の雑談だった。プーチンが臓器移植を繰り返せば人は若返り、さらには不老長寿も可能だと語ったのに対し、習は「今世紀中に人は150歳まで生きられるかもしれない」と答えた。

この会話は偶然録音され、最初にネット上で拡散したときは、愛国者の「小粉紅」も反体制派も、AI(人工知能)によるフェイクニュースと考えた。こうした公的かつ厳粛な場で雑談すること自体が不適切であり、臓器移植や不老長寿といった話題もあり得ないと思われたからだ。しかし、後に欧米メディアが関連動画を報じ、ようやく本当だと分かった。


厳粛なパレードの場での独裁者たちの気楽な雑談は、権力の傲慢さと欲望を余すところなく世界に示した。不老長寿は中国では全中国人の伝統ではなく、道教文化や皇帝の特権、死への恐怖が交錯した産物であると考えられる。歴史上、中国を統一した秦の始皇帝から清朝に至るまで、数多くの皇帝が「錬丹術」や仙人探しを通じて寿命の延長を試みてきた。

習とプーチンの長寿雑談も、この歴史の延長にある。長寿への執着は、現代のテクノロジー(臓器移植や遺伝子編集など)と結び付く。古代では仙薬が求められたが、現代では医療技術がその役割を果たす。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

FBIが複数の捜査官解雇、デモ隊の前でひざまずく姿

ワールド

NZは現時点パレスチナ国家承認せず、停戦の取り組み

ワールド

米国務省、コロンビア大統領のビザを取り消し 「暴力

ワールド

トランプ氏、マイクロソフトに幹部解任を要求 前政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国はどこ?
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒りの動画」投稿も...「わがまま」と批判の声
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 6
    「戻れピカチュウ!」トルコでの反体制デモで警官隊…
  • 7
    国立西洋美術館「オルセー美術館所蔵 印象派―室内を…
  • 8
    「不気味すぎる...」メキシコの海で「最恐の捕食者」…
  • 9
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 10
    「最後の手段」と呼ばれる薬も効かない...「悪夢の耐…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 7
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story