コラム

中国的特色だらけのアジア大会...シリアのアサド大統領を大歓迎、反米の英雄として賛美

2023年10月17日(火)12時20分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
©2023 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

©2023 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<アジア大会直前、中国はわざわざチャーター便を飛ばしてアサド夫妻を出迎えた>

「華々しく輝く中国の特色とアジアの姿を世界に示す」。これは、先月下旬に浙江省杭州市で行われた第19回アジア競技大会開幕式での習近平(シー・チンピン)国家主席の挨拶だ。「アジアの姿」はともかく、「中国の特色」はこの大会で際立っていた。

最注目は、シリアのアサド大統領の訪中だろう。アジア大会直前、中国はわざわざチャーター便を飛ばしてアサド夫妻を出迎えた。それだけでなく、1600年を超える歴史を持つ杭州市の仏教寺院・霊隠寺の慣例を破って「開かずの正門」を大きく開け、2人を大歓迎。自国民を無差別に虐殺して国際社会から制裁されている独裁者を、反米の英雄として賛美した。

「敵が反対するものをわれわれは断固として擁護する」と、かつて毛沢東は語った。敵の敵は味方であり、団結すべき──この中国外交の特色は毛沢東時代から現代まで少しも変わっていない。アメリカをはじめとした共産党政権と価値観がそもそも違う西側諸国は、一度も中国から仲間と見られたことはない。

この大会の男子卓球で日本対イラン戦が、男子サッカーで日本対北朝鮮戦が行われた時、中国の観客はこぞって「イラン頑張れ!」「北朝鮮頑張れ!」と叫んだ。新型コロナウイルスの感染が最初に始まったとき、日本が武漢へ贈った感染症対策物資の箱に書かれた「山川異域、風月同天」という詩に、たくさんの中国人が感動した。とはいえ、コロナ禍が収束した現在、敵はやはり敵、味方はやはり味方。社会主義中国の「老朋友」であり、同じ専制国家のイランと北朝鮮への応援は当然だ。

もう1つの中国の特色は「集中力量弁大事(国の力を挙げて大きな成果を遂げる)」である。アジア大会期間中の杭州は、急にハイテク都市となり、公共トイレにまで顔認識システムが導入された。高速道路の両側だけではなく、市民のマンションの部屋のベランダにも、政府が手配したクレーン車で花が並べられた。

「全ての花の開花期は決められている。アジア大会期間中に一斉に咲かなければならない。たとえ一輪だって咲きたくないとは言えない。絶対!」。冗談交じりのSNSの投稿だが、中国の最大の特色である権力の強大さがよく分かる。

ポイント

山川異域、風月同天
「山川、域を異にすれども 風月、天を同じうす(離れていても、つながっている)」。唐代の高僧で、仏教の戒律を伝えるため奈良時代の日本に渡った鑑真の伝記からの引用。

集中力量弁大事
鄧小平が改革開放政策を呼びかけた1992年の南巡講和の中で発した言葉。社会主義体制の優位性を生かして国家の力を集中し、高度経済成長を実現することを求めた。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小林氏が総裁選へ正式出馬表明、時限的定率減税や太陽

ワールド

アルゼンチン予算案、財政均衡に重点 選挙控え社会保

ワールド

タイ新首相、通貨高問題で緊急対応必要と表明

ワールド

米政権、コロンビアやベネズエラを麻薬対策失敗国に指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story