コラム

中国を席捲する「ニシキゴイ」ブーム

2018年11月09日(金)18時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

Koi Breeding, the China Way (c) 2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<いま中国で爆発的人気の「錦鯉」は、水槽どころか育てる必要もない。ただネット上でシェアするだけ>

「中国では今、錦鯉(ニシキゴイ)が爆発的人気だよ!」という話を聞くと、日本人は大体「本当に? 大きな水槽がないと困るね!」と、育てることばかり考える。しかし中国錦鯉に水槽は要らない。水槽どころか、育てることさえも要らない。ただネット上でシェアするだけでいい。

「中国錦鯉」は本物の魚のことではない。今年の国慶節の連休中、アリペイは中国の人気SNS新浪微博で「中国錦鯉になろう」というキャンペーンを始めた。書き込みを転発(リツイート)して抽選に当たれば、スポンサーが提供するたくさんの賞品が当たる。世界中どの国でも、アリペイを使えるところでさえあれば無料で買い物やサービスを楽しむことも可能だ。しかも、当選できるのはたった1人だけ。

「この錦鯉をシェアするだけで、これから働かなくていい」という呼び掛けにネットユーザが反応して、300万回以上のリツイートと2億超えのアクセスを記録。アリペイの「中国錦鯉」はSNSにおける史上最強のキャンペーンになった。

ニシキゴイのルーツは3~4世紀の西晋時代までさかのぼる。これを養殖して世界各国へ出荷し人気を呼んだのは日本人だが、魚はもともと中国人にとって縁起が良いもの。それに日本人の改良したニシキゴイの紅白や金銀の色は中国でも大変めでたい色だ。鯉のぼりの伝説と合わせて、「この錦鯉の写真をシェアすると全ての願いがかなう。富貴と幸運を招く」といった迷信も、中国のネット上では盛んだ。

アリペイはこの迷信に潜むビジネスチャンスを見つけ出した。中国錦鯉に当たった女性ユーザー「信小呆」のフォロワー数はあっという間に100万を超え、リストを読むだけで3分もかかる賞品を手にした......といった「錦鯉美談」がSNS上でシェアされ、同時に模倣も生まれた。今、中国のSNS上には「〇〇錦鯉」があふれている。もちろんどれもビジネスキャンペーンで、中には悪質な詐欺もある。

日本人は史上最も美しいニシキゴイを育てたが、中国人は史上最強の錦鯉キャンペーンを生み出した。台湾出身の実業家で作家の邱永漢は生前、「日本人は職人、中国人は商人」と語った。全くその通りだ。

【ポイント】
アリペイ

中国語で支付宝(チーフーパオ)。中国のIT大手・アリババグループ(阿里巴巴集団)傘下にある世界最大規模のモバイル決済サービス

邱永漢
1924年、台南市生まれ。父親は台湾人実業家、母親は日本人。東京帝国大学卒業。1955年に小説『香港』で直木賞を受賞し、実業家としてはドライクリーニング業などを営んだ。2012年死去

<本誌2018年11月06日号掲載>

※11月6日号は「記者殺害事件 サウジ、血の代償」特集。世界を震撼させたジャーナリスト惨殺事件――。「改革」の仮面に隠されたムハンマド皇太子の冷酷すぎる素顔とは? 本誌独占ジャマル・カショギ殺害直前インタビューも掲載。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story