コラム

中国に貿易戦争を仕掛けた、トランプを待つブーメラン

2018年07月21日(土)13時40分

米中貿易戦争で最も打撃を受けるのはトランプ支持層の大豆農家だ Zhang Peng-Lightrocket/GETTY IMAGES

<中国への強硬路線は大統領再選への道を開くどころか、自らの重要な支持層を痛めつける結果を招く>

貿易戦争が本格的に始まった。トランプ政権は7月6日、中国からの輸入品340億ドル相当に25%の追加関税を発動。中国も直ちに同規模の報復関税を導入した。両国はこれに加えて160億ドル相当の輸入品に対する関税措置を互いに計画している。

米政府は10日、対中制裁としてさらに2000億ドル相当の輸入品に10%の追加関税を課す計画も明らかにした。これらの措置が全て実施されれば、中国からの輸入品の約50%が関税引き上げの対象になる。

トランプ大統領の貿易戦争に対する識者の反応は、おおむね批判的だ。有力エコノミストたちもほぼそろって、無謀で見当違いな政策だと非難している。

レーガン政権で行政管理予算局長を務めたデービッド・ストックマンによれば、トランプは「自分がやっていることの意味を理解していない」。経済の複雑性と相互依存性が高まっている今日、アメリカが中国と貿易戦争を始めれば、世界経済が壊滅的な打撃を受けかねないと、ストックマンは指摘する。

トランプの対中強硬姿勢は、16年米大統領選での過激な発言の延長線上にある。トランプは中国との貿易不均衡に終止符を打つと心に決め、20年大統領選での再選に向けて「アメリカ・ファースト」の政策に突き進んでいる。

中国政府に有利な戦い?

しかし、トランプにとって、これほど危うい行動はないかもしれない。中国に対する制裁関税の影響がブーメランのように戻ってきかねないからだ。

中国との貿易戦争は、もっと経済規模の小さな民主主義国を相手にするより格段にリスクが大きい。中国は巨大な経済を擁している上に、国を統治する指導部は選挙の心配をせずに済むからだ。

制裁関税は中国経済にかすり傷くらいは負わせられるかもしれないが、選挙の洗礼を受けない中国指導部は長期戦に持ち込む余裕がある。それに対し、アメリカでは、来年の今頃には次の大統領選のテレビCMが流れ始めるだろう。もし貿易戦争により株式相場が下落したり、物価が目に見えて上昇したりすれば、トランプは有権者の厳しい目にさらされることになる。

経済への影響次第では、自由貿易志向の強い与党・共和党内でもトランプに挑む候補者が登場するかもしれない。それでも、トランプが共和党予備選を勝ち抜けない可能性は小さい。共和党支持層での支持率は87%に達している。それでも、共和党支持者の投票率が前回より下がれば、本選挙で民主党候補に勝つことは難しくなる。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story