コラム

ニューヨークの空港衝突事故、パイロット2人の悲しい犠牲

2026年03月25日(水)15時10分

ラガーディア空港の事故で機首が破壊されたエアカナダ・エキスプレスの機体 Andrea Renault/ZUMA Press Wire/REUTERS

<空港の保安検査場の大混雑が問題になる中で起きた大事故で、乗客全員の命が奇跡的に助かった>

3月末のアメリカでは、各空港で保安検査場の混雑が大問題になっていました。TSA(運輸保安庁)と呼ばれる保安検査機関への予算が宙吊りとなる中で、保安検査官への給与支払いが凍結され、生活費のためアルバイトなどを始めて欠勤する検査官が増加。その結果として、検査待ちが3時間とか4時間になっていたのです。そんな中で、ニューヨークの大空港で全く別の大きな事故が起きてしまいました。

3月22日の深夜近く、ニューヨークの3大空港の1つであるラガーディア空港にモントリオールから飛来したエアカナダ・エキスプレス航空の8646便(フライト番号はAC8646、機材はボンバルディアCRJ900型機)が着陸して地上で減速中に、滑走路を横切った消防車両と衝突しました。AC8646はちょうど機首が車両と衝突して大破し、コックピットとその背後のギャレーが全壊し、車両に乗り上げました。


この事故で、操縦士と副操縦士の2人が即死しましたが、客室乗務員と乗客、そして事故車両に乗っていた消防士2人の計76人については41人が負傷したものの、死者は出ませんでした。事故の様子は保安用のカメラで撮影されており、また管制官の交信音声なども公開されていることから、全米に衝撃が走っています。

パイロットが自らを犠牲にして乗客を守ったのか?

どうして消防車両が走っていたのかという理由は判明しています。衝突事故の20分前に離陸しようとしていた別の飛行機が、凍結警告灯の点灯によって離陸を中止した後に、コックピット内で異臭を感じたと管制塔に連絡があったからでした。機内火災の可能性があることから、管制塔は消防車両を派遣しました。

現時点では、事故当時の管制塔では3人の管制官が業務にあたっていたものの、離着陸の管制と、この異臭事故への対処については、1人の管制官が同時に行っており、そのことが判断の遅れにつながったという見方がされています。一方で、事故現場の近くで一部始終を目撃しつつリアルタイムで管制との交信を聞いていた別の飛行機のパイロットからは「管制はベストを尽くしていた」という証言も報じられています。

いずれにしても、事故原因の詳細については、事故調により解明が進むと思われます。ちなみに、今回の調査を進める調査官チームは、ワシントンから現地に航空機で向かおうとしたところ、TSAの人員不足による混雑に直面したため、陸路を公用車で移動したために現地入りが遅れるという混乱もありました。事故調査のため、ラガーディア空港は長時間にわたって閉鎖され、全米の航空ダイヤに混乱が拡大しました。

今回の事故ですが、専門家が指摘しているのは、仮に衝突がコンマ数秒でも前後していたら大惨事になっていたという点です。つまり、消防車両が少しだけ早く、あるいは遅く走っていたら、あるいは事故機がほんの少しだけ前後していたら、車両が機首ではなく両翼のどちらかに衝突していたかもしれないからです。両翼には燃料タンクがあり、そこが破損して着火していたら胴体への延焼または大爆発の可能性があり、多くの乗客の生命が失われ、消防車も巻き込まれていただろうというのです。

救出された乗客の間では、もしかしたら亡くなった機長と副操縦士は、最後の一瞬にブレーキを操作することで、意図的に両翼でなく機首を車両に当てて両翼の燃料タンクを守ったのかもしれない、という説が語られているそうです。もしかしたら、自分たちのために2人は決意の上で犠牲になってくれたというのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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