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「AIに使われるか、AIを従えるか」 一橋大学が問う、エージェント時代の「次世代エグゼクティブ」の条件

2026年3月25日(水)17時00分
一橋データリーダーシップアカデミー(一橋DLA)

一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科の七丈直弘教授(右)と同大学大学院経営管理研究科の野間幹晴教授

AIとの対話は、もう『チャット』で終わるレベルではない

もしあなたが「AIを活用している」と胸を張る理由がChatGPTやClaudeとの「チャット(会話)」にあるなら、世界から見ればすでに周回遅れかもしれない。今、シリコンバレーを中心に世界を塗り替えているのは、自律的に思考し、計画し、行動する「エージェンティックAI」だ。

一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科が2025年秋に開講した「一橋データリーダーシップアカデミー(一橋DLA)」の会場。そこには、大手金融、商社、メーカーから集まった、次世代の経営中枢を担う若手リーダーたちの姿があった。彼らが学んでいるのは、単なるプログラミングの知識ではない。AIを自らの「手足」として駆動させ、経営課題を突破するための圧倒的な「指示力」と「判断力」だ。

なぜ、日本を代表する企業のトップランナーたちが、今、一橋の門を叩くのか。そこには、従来の「DX研修」が決して踏み込めなかった、残酷なまでの技術革新の現実と、それを希望に変える一橋独自の戦略があった。

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一橋DLAの講義の様子。大手金融、商社、メーカーなどから受講生が集まった

技術の『本質』を、誰よりも理解している必要がある

一橋DLAがターゲットとするのは、現場を卒業し、組織の未来を担うべき「次世代エグゼクティブ層」である。

「彼らは、自らコードを書くエンジニアになる必要はない。しかし、AIという高度な部下を率い、経営判断を下す立場として、技術の『本質』を誰よりも理解している必要があるのです」と、プログラムを主宰する同研究科の七丈直弘教授は断言する。

市場には、数多のプログラミング講習やAIセミナーが溢れている。しかし、その多くが「実装」という手段に終始し、経営という目的に届いていない。一橋DLAの哲学は真逆だ。

「ここでは、あえてプログラミングを一切教えていません。重視するのはコンセプトと根拠。本質をしっかり学び、あとは『エージェント』に委ねる。その『委ね方』の品質こそが、次世代リーダーの価値を決めるからです」

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プログラムを主宰する七丈直弘教授

「バディ」と共に挑む、リアルな経営課題

理論を学ぶだけで終わらせない。一橋DLAの最大の特徴は、受講生一人ひとりに付く「メンター(バディ)」の存在だ。ソーシャル・データサイエンス(SDS)学部・研究科で学び研究する、最先端の知見を持った学生や研究者たちが、エグゼクティブの「脳」の拡張を支援する。

受講生は、自社が抱える生々しい課題を持ち込む。銀行の離脱客分析、商社の需要予測、メーカーの熟練工の技術伝承――。「これを分析してくれ」と指示を出す受講生。それに対し、メンターは最新のAIツールを駆使して並走する。このプロセスは、まさに未来の経営現場の縮図だ。一橋DLAのマネジメントを担当する同研究科の岡田智博特任講師も、こう力説する。

「自分一人で画面に向き合う必要はありません。最新の武器を持つ優秀なスタッフを、どう動かし、どう結論へと導くか。このハイブリッドな体験を通じて、受講生は『自分の会社に戻った時、誰に何を命じればいいのか』を、手触り感を持って理解していくのです」

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18名の受講生が、それぞれの実践テーマに挑んだ

チャットの先にある「エージェント時代」の衝撃

2025年度のテストランで投入されたのは、Claude CodeやGoogle Antigravityといった、驚異的な自律性を持つエージェンティックAIだ。

七丈教授は警告する。「AIがチャットで答えてくれるのは、そのポテンシャルの数パーセントに過ぎない。今来ているのは、ミッションを与えれば、AIが自ら計画を立て、試行錯誤を自ら繰り返し、最終的にはリフレクション(内省)まで行って解決策を提示する『自律型エージェント』の波です」

例えば、データが足りなければAIが勝手に求人サイトを立ち上げ、人間を雇ってでも解決しようとする事例すら世界では起きている。この劇的な変化に対し、日本企業の大半はまだ「チャットを導入した」段階で足踏みしている。「AIを部下や同僚として使いこなす人間と、AIに仕事を奪われ、AIのエージェントとして使われる人間に二極化していく。その分岐点に今、私たちは立っています」

伏線回収のように、学んだことすべてが繋がる

2026年3月23日。3カ月間の濃密なプログラムの締めくくりとなる最終報告会が開催された。会場には、イノベーション経営や人的資本経営の権威である野間幹晴教授(経営管理研究科)も登壇。受講生たちのプレゼンテーションを鋭く評価した。

驚くべきは、受講生たちの変容だ。当初は「AIに何ができるのか」と半信半疑だった面々が、最後にはAIという自律的なエンジンを使いこなし、確固たる経営戦略を語っていた。

「今回のテストランは、間違いなく成功でした」と七丈教授は振り返る。「驚きを驚きで終わらせず、自分の実力として持ち帰る。推理小説の伏線回収のように、学んだことすべてが繋がり、最後には一つの大きな経営提言へと昇華される。そんな体験を提供できたと確信しています」

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野間教授も、一橋DLAの狙いを高く評価している

一橋大学が仕掛ける、新たな「ネクサス」

一橋DLAは、2025年度の文部科学省プログラムとしてのトライアルを終え、さらなる高みへと向かう。特筆すべきは、一橋大学が新たに設立した「株式会社一橋イノベーションネクサス(HINexus)」の存在だ。国立大学法人が自ら株式会社を保有し、ビジネスの最前線へとコミットする。一橋DLAもこの新組織を軸に、より機動的で、より市場に即した形で2026年度以降のプログラムを本格化させる。

「来年度は、さらに『エージェント』を深く掘り下げます。時代は3ヶ月、半年で塗り替わる。私たちは常に最新のツールと知見をアップデートし、日本企業が世界の覇権争いに勝ち残るための『実践知』を提供し続けます」(岡田特任講師)

一橋イノベーションネクサス――。その名の通り、経営とデータ、大学と企業、そして人間とAIを繋ぐ新たな結合点(ネクサス)として、一橋DLAは日本の未来を牽引していく。

次世代のリーダーを自負する者よ、一橋DLAの門を叩け。そこには、あなたがまだ知らない「AIを従えるための真実」が待っている。

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今回のテストランを踏まえ、2026年度以降のカリキュラムの検討も進む

●問い合わせ先/一橋データリーダーシップアカデミー
https://www.sds.hit-u.ac.jp/dla/

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●問い合わせ先/一橋データリーダーシップアカデミー

https://www.sds.hit-u.ac.jp/dla/