コラム

被爆80年の今、真剣に議論しなければならないこと

2025年08月06日(水)13時30分

確かに、核禁条約とNPTは違います。ですが、例えば日本政府の立場として、現在はNPT体制の側だが、将来的には、つまりプラハ宣言でオバマ氏が主張したように将来的には核廃絶を遠望しつつ、核禁条約にはオブザーバー参加をするという可能性は議論してもいいのではと思います。双方が原理主義的にお互いを非難していては、核戦争の危険を引き寄せるだけであり、被爆80年にあたって何らかの歩み寄りはできないものかと思うのです。

これとは別に、核拡散を防止する手段として、今年は、異例の強硬策が実例となってしまいました。イランの核開発に対して、イスラエルとアメリカにより国連決議も査察も省略して、突然通常兵器による攻撃を行うという「力による現状変更」が行われたのです。その後、制空権を喪失したイランが大規模な反撃ができないなかで、この攻撃による核拡散防止行動が「成功事例」のようになっています。


これはこれで、NPT体制にとっては良いことではありません。核拡散を防止するためには、IAEAによる査察と、外交による防止が本筋であり、一方的な攻撃を容認するようでは、国際法の秩序は崩れてしまうからです。核拡散は法の支配により防止されるべきものであり、力によって実現したり、断念させたりするものではありません。

いずれにしても、悪しき自国中心主義の世界的流行、核禁条約派とNPT派の対立、そして、力による核拡散への防止行動の正当化、そのいずれも、核戦争の脅威を引き寄せる危険な風潮だと思います。被爆80年にあたって、真剣な議論が求められています。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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