コラム

ワクチン「3回目」戦略をどうするか

2021年11月17日(水)14時00分

アフリカ各国の場合は、まだ接種率が7%とか10%といった水準であり、こちらのワクチンを回すべきだという意見もあります。ですが、アフリカの場合は、注射器が不足しているとか、接種体制が整備できないという問題があり、作った先から使わないといけないワクチンを全て回すわけにも行きません。

そんな中で、アメリカの場合は、とにかく「成人には3回目」の接種を進め、同時に5歳から11歳の接種を進めることで、学校現場や家庭内の感染拡大を抑え込む、そうした施策を通じて、季節要因や社会のオープンによるリスクと均衡させようという戦略になっています。

こうした現状と比較すると、日本の場合は巨大な現役世代における接種率が高く、また2回目接種の時期が夏であることから、免疫力の「壁」が構築できていると言えます。その結果として、感染を相当に抑え込むことに成功しているわけです。

ですが、その「壁」も接種から6カ月を過ぎると弱くなって行きます。日本の場合は、そもそもの接種率が人口比で75%と高いわけですが、72%に達している米国バーモント州、80%を超えているシンガポールでもリバウンドは起きているわけで、油断はできないと思います。

司令塔の一本化を

そんな中で、日本の場合は「3回目」を「2回目」から「8カ月後」とするのか、「6カ月後」とするのかで方針の統一が必要だと思います。今のところは、抗体の減少という調査結果を受けて厚労省の専門部会からは「6カ月」というメッセージが出ている一方で、厚労相やワクチン担当大臣からは、「6カ月はあくまで例外」で「あくまで8カ月が原則」という発言が出ています。

つまり政治が方針を決めて引っ張るのではなく、政治が「平時モードにおける組織の利害」を擁護する形になっています。新任の大臣はそのようにして、組織と信頼関係を作ることを優先しがちですが、菅政権における迷走の繰り返しになっては、政治が弱体化してしまいます。ここは落ち着いた感染状況を守り抜くためにも、約束通り司令塔を一本化して「希望者全員に2回目から6カ月後の3回目」を実現するのが良いのではないでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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