コラム

大谷翔平は、英語でインタビューに応じるべきなのか?

2021年07月14日(水)14時30分

今季の活躍を見れば英語で肉声が聞きたいという声が出るのも自然なこと Isaiah J. Downing-USA TODAY Sports/REUTERS

<今は水原通訳とのコンビで、インタビューにもうまく対応しているのでそれでいいのだが......>

MLBのオールスターゲームで、最大の話題は大谷翔平選手の「ホームラン・ダービー」と「二刀流出場」でした。打者としては、ホームラン・ダービーで体力勝負の局面に善戦して印象を残しましたし、投手としては先発して1イニングをパーフェクトに抑えて勝ち投手となり、見事に「投打の両立」を証明したと思います。

その大谷選手に対して、英語でインタビューを受けるべきという声があり、一方で、英語を強要するのは多文化主義に反するという声もあり、ちょっとした論争になっていました。

確かに、村上雅則氏(アジア人初のメジャーリーガー)という先駆的な存在を別にすれば、1990年代の野茂英雄氏に始まり、多くの日本人選手がMLBで活躍してきましたが、ほとんどの選手がインタビューなどファンとのコミュニケーションにあたっては専属通訳を介していました。これには、一長一短があると思います。

例えば、マリナーズ時代の後半に鈴木一朗氏が「チームの勝利のための出塁よりも、連続安打記録にこだわっているのでは?」という疑念が持たれた時などは、英語でダイレクトなメッセージ発信ができれば状況は好転したのではと思ったことがあります。

その鈴木氏は、2025年には野球殿堂入りが確実視されていますが、その受諾スピーチについては、格式ある英語表現を駆使して、永遠にアメリカの野球ファンの心を掴むものとして欲しいと思います。

大谷が抱える2つの条件

松井秀喜氏や黒田博樹氏の場合なども、その緻密で真摯な野球観や、技術的な達成についてファンに向けて英語で説明する機会があれば、それこそ無形文化財的なハイレベルな野球の真髄を、アメリカの子供たちに幅広く紹介できたかもしれません。

中南米から来た多くの選手が、発展途上の英語を駆使して体当たりのコミュニケーションを行い、引退後にはネイティブではなくても英語での野球解説で人気を得ているといった例を見ていると、日本人選手が通訳に頼った「間接的コミュニケーション」を続けるのは、不自然に思えることもあります。

ですから、現在2021年の公式戦シーズンで投打二刀流の活躍を続け、オールスター戦でも大きな注目を浴びた大谷翔平選手について「英語での肉声を聞かせてほしい」という声が出るのは自然だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

9月の米卸売在庫、0.5%増 GDPにプラス寄与か

ワールド

タイ首相、議会解散の方針表明 「国民に権力を返還」

ワールド

米印首脳が電話会談、関税導入後3回目 二国間関係な

ワールド

トルコ中銀が150bp利下げ、政策金利38% イン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 8
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story