コラム

MLB「球場ボイコット」の背景にある両党派双方の思惑

2021年04月07日(水)11時00分

ジョージア州の選挙法改正に抗議する人たち Dustin Chambers-REUTERS

<マイノリティーの投票妨害を狙ったジョージア州の選挙法改正に、コカコーラなど同州に拠点を置く大企業などはさっそく抗議を表明したが>

昨年は開催されなかったMLB(メジャーリーグ・ベースボール)のオールスター戦ですが、今年は開催するということでジョージア州アトランタ郊外のブレーブス本拠地、トゥルーイスト・パークという会場、そして7月13日という開催日が発表されていました。

アメリカでは依然として新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、今季のメジャーリーグは、すでにレギュラーシーズンの公式戦がスタートしています。公式戦は、通常通り162試合が行われます。全ての本拠地球場で試合が開催され、ほぼ正常化が実現する見込みです。

ただし、各州ごとの感染対策基準を守りながらの開催となるため、ボストンでは定員の12%、ニューヨークでは定員の20%(プラス72時間以内のPCR陰性)といった厳しい規制がある球場もあれば、テキサス州のように定員一杯までOKといった州があったりします。

ところが、このアトランタにおけるオールスター戦をMLBはボイコットし、代替球場としてコロラド州デンバーのロッキーズ本拠地、クアーズ・パークが使用されることとなりました。

選挙法改正への抗議

原因は、4月1日に共和党の主導するジョージア州議会が可決し、ブライアン・ケンプ知事が署名して発効した「選挙法」改正の問題です。ジョージア州では、2020年11月の選挙、ならびに2021年1月の上院再選挙で、「大統領と上院の2議席」について民主党が歴史的な勝利を収めました。

その背景には、貧困層や有色人種など、従来は投票所に行く手段がなかったり、投票手続きを理解しないなど選挙権を行使できなかった人々に対して、民主党が、キメの細かい選挙権行使運動を続けたことも一因と言われています。

今回の法改正は、そのような選挙権行使を妨害するのが目的であり、例えば期日前投票や郵送投票の手続きを厳格にして、多くの人には利用できないようにしたり、投票所の利便性を奪うなどして、州の選挙制度全体を、特に黒人貧困層には不利になるように改変するものです。

余りに露骨な法改正であることから、全国的な反発の声が上がり、例えばジョージア州を本拠地とするコカコーラ社やデルタ航空をはじめ、多くの大企業が公然と抗議を表明する事態となりました。今回のMLBによるオールスター戦のボイコットは、これを受けてのものです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

米ミネソタで州議員が銃撃受け死亡、容疑者逃走中 知
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story