コラム

コロナ危機、人種分断、経済再生──次々に噴き出す米政治の課題

2020年06月04日(木)15時40分

ブッシュ元大統領も平和的デモへの支持を表明 Jonathan Ernst-REUTERS

<米正規軍の動員を考えていたトランプだが、現職の国防長官から制止されて一旦は沈黙している>

5月25日(月)にミネソタ州ミネアポリスで発生した黒人男性ジョージ・フロイド氏が警官の暴行で死亡した事件ですが、直後から始まった抗議行動が、28日以降は全国に広がりました。特に29日(金)からの週末は、全国の主要都市では平和的な行進だけでなく、暴力的なデモに発展することもあり、国中が騒然としていました。

そんななかで、トランプ大統領は徐々に強硬姿勢を強め、全国知事会に「諸君は弱腰、治安維持には力で」などと強硬なメッセージを出したり、また首都ワシントンDCにおける平和的なデモへの弾圧を指示したと思われる点が、大きく批判されていました。

問題が動いたのは6月3日(水)です。この日、ミネソタ州検察は、犯行に加わった4人の警官の全員をあらためて起訴しました。主犯格のディレク・ショービン容疑者は、5月29日に「第3級殺人」の容疑で逮捕されていたのですが、今回「第2級殺人」に容疑が変更になりました。これで最高刑は禁錮25年から40年に拡大されたことになります。ちなみにミネソタ州は1911年以来、死刑廃止州として、1世紀を越える歴史があります。

また暴行当時、一緒に行動して「取り押さえ」の手助けをした元警官(既に免職)3人に関する処遇も決まり、「第2級殺人のほう助・教唆」という容疑で拘束されています。

ということで、とりあえず被害者の遺族、そしてデモ隊が要求していた法の裁きということでは、最初の関門が開いたことになります。これと前後して、3日には様々な動きがありました。

「若者たちが立ち上がったことには希望がある」

まず、クリントン、オバマに続いて大統領経験者であるジョージ・W・ブッシュが今回の問題に関する平和的デモへの支持を表明しました。最近のこの人の言動からはそれほどの驚きはないのですが、それなりに重みのあるニュースとして伝えられています。

一方で、オバマ前大統領はネット演説を行い、そのなかで発した次のようなメッセージが話題になりました。

「ベトナム戦争や公民権などで社会が分断されていた60年代・70年代と比較すると、現在のほうが多様性の保障されるよりよい社会に近づいている」

「その60年代に『わたしには夢がある』という演説で人々に感動を与えたキング牧師も当時は若者(34歳)だった。今、人種分断に抗議して立ち上がったのも若者であり、そこに希望がある」

「警官による暴力は実務的に克服できる。全国の市長の皆さんは具体的な防止対策にすぐに着手していただきたい」

このオバマ演説は、「一連の事態の中で初めてリーダーらしい、大統領らしいメッセージを聞いた(CNNのキャスター、ドン・レモン氏)」というような評価が多く、大変に話題になっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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