コラム

脱原発と排出ガス削減をめぐる、日本の2つの選択肢

2019年12月12日(木)17時00分

福島第一原発の事故をきっかけに、日本の世論と政府は脱原発へと大きく舵を切った(写真は今年2月、廃炉作業にあたる東電の作業員) Issei Kato-REUTERS

<震災以降、原発稼働を停止し石炭火力を増設することが暫定的な国策となっているが、選択肢はそれだけではない>

スペイン・マドリードで国連の気候変動枠組み条約に基づく第25回締約国会議(COP25)が開かれています。石炭火力発電に依存しているばかりか、さらに増設の計画を進めている日本に対して、国際的な批判が集中しています。会議の前には「化石賞」、つまり化石燃料に依存している状況を皮肉った賞が贈られるなど散々なありさまです。

そんななかで、小泉進次郎環境大臣は同会議の閣僚級会合で演説しました。小泉大臣は、「石炭政策について世界的な批判は認識している」としながらも、石炭政策に関しては「新たな展開を生むには至らなかった」と述べています。また特に国際的に批判が大きい「石炭火力発電所の輸出」について、自制するという発言も見られませんでした。

環境派というイメージを売ってきた小泉大臣ですから、まるで変節をしたようにも見受けられます。ですが、この発言はある意味では当然と言えます。なぜならば、これが国策だからです。

2008年に発足した民主党の鳩山政権は「2020年までに温室効果ガスを、1990年との比較で25%削減を目指す」ことを「鳩山イニシアチブ」として国際社会に約束しました。どうして、そんなことが可能になるかと言うと、民主党政権は原発の新規建設を進めるとともに、稼働率を高める計画だったからです。

ところが、震災後に旧民主党勢力はまったくの方針転換をして、原発への拒絶感を持った世論に迎合して「原発ゼロ」を主張するようになりました。また、世論を恐れるということでは、自民党の側も同様であり、再稼働には極めて慎重になっているのは事実です。政策以前の問題として、地域での同意を得ることが難しくなっています。

この流れの中で、一気に火力依存となったのですが、同じ火力の中でも天然ガス火力の場合は、円安政策のためにエネルギーコストの抑制が難しいことから、石炭火力の増設が暫定的な国策になっています。国として、本当は安全な原子炉は稼働させたいのですが、政治的リスクが取れないので、電力の安定供給のためにやむを得ず取っている方針と言えます。

もちろん、再生可能エネルギーですべてを置き換えればいいのですが、風力の場合は景観や低周波公害の問題が、太陽光の場合は天候を含めたコストの問題があり、一方で日本の場合に豊富である地熱の場合は自然保護の観点からの難しさがあります。ですから、総合的に見ればコスト的にも短期間で100%の置き換えは不可能です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story