コラム

米軍シリア撤退で具体化したトランプの公約「アメリカ・ファースト」

2019年10月24日(木)18時15分

1つは、アメリカは他国や他の勢力のために犠牲を払いたくないという考え方です。つまり、クルドという「アメリカ以外」のためにカネや兵力という犠牲が発生していたのをストップするのは、アメリカの勝利になるのです。

2つ目は、アメリカがアメリカのことしか眼中にないのであれば、世界平和をどう実現するのかというと、それは大国の首脳との「ディール」で簡単にできるという「俺様ファースト」の考え方です。特にシリアにおける混沌とした状況については、「プーチンに任せる」というのが選挙公約でしたから、今回はそれがまさに実現した形です。

3つ目は、他国への介入をやめるという「非介入主義」、とりわけ「政権転覆(レジーム・チェンジ)」を狙った作戦をやめるという考え方です。究極の孤立主義から来る考え方ですが、アメリカは「シリアにおける政権交代を求めない」ということで、この「非介入主義」を具体化したのです。

ということで、2016年の選挙で公約した内容は、IS掃討も含めて「全部実現した」のだから、これは「アメリカの勝利」だというのがトランプ大統領の考え方であり、勝利宣言というのは負け惜しみでも何でもないのです。

では、こうした「アメリカ・ファースト」によって世界の各地は平和になるのかというと、決してそうではありません。強大なアメリカが、自由と民主主義の理念を掲げつつ、地域紛争の抑止に尽力してきたその努力をストップするのですから、平和にはならないのです。

その場合は、アメリカとして紛争当事国には兵器を売りつけようという魂胆も見え隠れします。「アメリカ・ファースト」だから自分たちは関与しない、けれども紛争があるのなら「アメリカ・ファースト」の考え方から武器の販売は大いにやりたい、つまり自分たちが火の粉をかぶらなければ、各地域が平和である必要もないし、戦争状態ならかえって軍事産業の需要が喚起される、これが「アメリカ・ファースト」の考え方の全体像なのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

UPS貨物機墜落、ブラックボックス回収 死者11人

ビジネス

世界のPE、中国市場への回帰を検討=投資ファンド幹

ワールド

米、40空港で運航10%削減へ 政府機関閉鎖で運営

ビジネス

米クアルコム、10─12月期見通しが予想上回る ス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショックの行方は?
  • 4
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 5
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story