コラム

銃乱射事件が続くテキサス州で、規制緩和が進むのはなぜか?

2019年09月03日(火)18時20分

銃乱射事件が続いてもテキサスの人の意識は変わらない Callaghan O'hare-REUTERS

<テキサスの人にとっては、事件があるから銃を持ちたいし、持ちたい人の権利を剥奪するのは死ねと言うこと>

8月31日、テキサス州のオデッサ市近郊で再び銃乱射事件が発生しました。夏の終わりを告げる「レイバーデー(労働者の日)」の連休中、映画館の駐車場で起きた惨事は、現時点で7人の犠牲者を出しています。

このオデッサは、22人が犠牲となった銃乱射事件の起きたエルパソ市と同じテキサス西部にあります。8月4日の事件からまだ1カ月も経っていない中での惨事に、全米は衝撃を受けており、現在予備選レースの真っ最中である民主党の大統領候補たちは、一斉に銃規制強化を主張するツイートをしています。

ところが、このオデッサでの銃撃事件の数時間後に、テキサス州は銃規制論議に逆行する「銃の規制緩和」を実施しました。すでに州議会を通過して知事が署名している州法とはいえ、乱射事件の直後に施行するというのは、いかにも無神経に見えます。

その内容ですが、
「学校の駐車場において銃ならびに弾薬を保持した車両の駐車を禁じてはならない」
「賃貸アパートなどの家主は、借主が銃ならびに弾薬を持ち込むことを禁じてはならない」
「教会等の礼拝中における銃の携行を禁じてはならない」
「災害避難民に対して銃の携行を罪に問うてはならない」

といったものなどです。それぞれが別の州法となっていますが、全体的に銃の携行についてより幅広く権利を認め「携行を禁止することを禁止」する内容となっています。

惨事が続く中で、例えばアメリカ東海岸やカリフォルニアなど、銃社会ではない地域では、こうした規制緩和はまったく理解できないわけです。もちろん、アメリカ国外でも同様だと思います。これではまるで、銃による犯罪を助長しているように見えますし、それゆえに「NRA(全米ライフル協会)」などの「ガン・ロビー(銃保有者の権利を代弁する政治圧力団体など)」に対して怒りの声が上がるのも当然だと思います。

では、いったいテキサス州の人々は何を考えているのでしょう。実は、銃社会の論理というのはまったく正反対なのです。

銃社会の外側では「乱射事件が起きたから銃を規制しよう」と人々は考えます。

ですが、銃社会に生きる人々は「乱射事件が起きて怖いから銃を持ちたいし、持ちたい人の権利を剥奪するのは死ねということだ」という発想をします。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRB12月の追加利下げに

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、アマゾン・オ

ワールド

欧州委、ウクライナのEU加盟努力評価 改革加速求め

ワールド

ウクライナ東部の要衝ポクロウシクの攻防続く、ロシア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story