コラム

ボーイング737MAX8、問題の本質は操縦免許にあるのでは?

2019年04月10日(水)19時45分

ボーイングの姿勢はなぜここまで鈍かったのでしょうか? また、アメリカン航空などのパイロットはどうして乗務を拒否しなかったのでしょうか? この2つの点に、事故の本当の原因を解明する鍵があるのではないかと思うのです。

一つの仮説が考えられます。そのMCAS(自動機首下げ機構)が暴走した際に、機体を立て直す、「何らかのノウハウ」があったのではないか、要するに、自動システムが暴走した場合には、電子制御を全部オフにして、手動で操舵する、その際にどうすれば思い通りに舵が動かせるのかという「ノウハウ」があった可能性です。その「ノウハウ」とは、もしかしたらベテランのパイロットの技術によるものかもしれないし、あるいは現場で何らかの情報が共有されていたということなのかもしれません。

例えば、インドネシアのライオン・エアーでは、事故機と同じような挙動に陥った機体を、非番のパイロットが救ったという逸話が報じられています。報道が事実なら、その非番パイロットは、何らかの方法で、その「ノウハウ」知っていたことになります。また、アメリカン航空やサウスウェスト航空のパイロットが、最後まで乗務を拒否しなかったのも、その「ノウハウ」が徹底していて、機体のクセも、暴走時の立て直し方法も熟知していた可能性があります。

その「ノウハウ」ですが、キチンと公開していなかったか、理解していなくても飛ばせるというレギューレーションにしていた疑いがあります。つまり、すべてのMAXのパイロットに「ノウハウ」を理解させ、訓練させるようにすると「MAX」は「クラシック737」の機種別免許では飛ばせなくなるわけです。そうなれば、コスト上昇の要因となりますから、営業面では不利になります。

ですから、大量販売する中では、建前としては「ノウハウ」の必要性は隠していたという可能性があります。要するに「機体のクセは全自動で修正するハイテク機だから、古い737の免許でそのまま飛ばせる」というのがセールストークになっていたという可能性です。

その結果として、インドネシア機の最初のインシデントの時に立て直した非番パイロットや、いつまでも不安なく飛ばしていたアメリカの機長連中は「ノウハウ」を知っていたが、2機の事故機のクルーは知らなかったという可能性です。

仮にそうであれば、今回の事故は、販売を容易にするために機種別免許をごまかすための裏表のある運用が招いた事故で、技術的な欠陥とか、ソフトの設計ミスというよりも、販売戦略まで含めた完全な人災という仮説で見ていくのが良さそうです。

ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フェンタニル対策「米も責任果たすべき」、メキシコ大

ワールド

米、メキシコ産トマトの大半に約17%関税 合意離脱

ビジネス

マスク氏、テスラとxAIの合併否定 投資を巡り株主

ワールド

米最高裁、教育省解体・職員解雇阻止の下級審命令取り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story