コラム

安倍政権は今こそトランプと距離を置く時ではないか

2018年06月07日(木)17時15分

それだけではありません。アメリカが仮に北朝鮮に対して譲歩し、「核廃棄には時間的猶予」を与える一方で「短中距離ミサイルは残る」「当面核弾頭は残る」ような結果となり、さらに在韓米軍の削減など東アジアのパワーバランスへの変化が起きるようでは、日本の「安全の保障」にも大きな影響があります。

さらに、そのパワーバランスの変化に対して、トランプ政権から日本の「自主防衛」を迫られて国論分裂に追い込まれ、その上に巨額な兵器購入まで強いられるようでは、平和国家という日本の「国のかたち」までが揺らいでしまいます。

そのような危険性を考えると、安倍総理は今こそトランプ政権と距離を置くべきです。ゴルフ外交を積み重ねたからといって遠慮は必要ありません。フランスのマクロン大統領にしても、あれだけトランプ大統領と「抱擁を重ねた」にも関わらず、結果的に忠告は無視され、イラン核合意を「蹴っ飛ば」されているのです。この特異な大統領にとっては「首脳間の個人的信頼関係」の演出など、そもそもディールのテクニックのひとつに過ぎないのです。

2016年11月以来、安倍総理がトランプタワーを訪問したり、ゴルフ外交を重ねてきたりしたのは、トランプ政権の「保護主義」とか「同盟国の安全保障責任放棄」といった危険な匂いを感じて、その影響を最小限にしようと苦心してきたのだと思います。それはそれで外交当局も含めて正当な努力だと思います。

ですが、今回のG7とシンガポールの局面はそれとは別です。明らかに日本の国益が大きく損なわれるようであれば、ズルズルと引きずられるよりは、距離を置く必要も出てきます。その場合は、他のG5諸国との協調が重要になりますし、これに加えて日韓、日中との丁寧な対話を繰り返すことで、東アジア全体の安定を確保することが必要になってきます。


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル・UAE主要空港、限定的に再開へ 帰国支

ワールド

中東紛争激化で旅行関連株急落、過去3日で世界で40

ワールド

トランプ氏、イランとの戦争で「大きな波はまだ」=報

ワールド

イラン作戦、目標達成に時間 終わりなき戦争ではない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 5
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 6
    【トランプ関税はまだ序章】新関税で得する国・損す…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story