コラム

オバマ政権がイランへ支払った17億ドルの意図とは何か

2016年09月08日(木)17時45分

Soe Zeya Tun-REUTERS

<イランとの核合意の後にオバマ政権が支払った「清算金」は17億ドルに上っていたことが発覚。合意後の対イラン関係を重視するのはわかるが、それも含めて中東外交の大方針を説明していないことは問題>(写真は今週ラオスで開催された東アジアサミットに参加したオバマ)

 アメリカのオバマ政権は、ケリー国務長官を中心としてイランとの「核合意」を推進してきましたが、そのプロセスの一環として、6億ドル(約600億円)の「キャッシュ」をイランに支払っていたことが明らかになっています。

 これには保守派からかなり非難が出ていたのですが、今回イランに渡った総額は6億ドルではなく、全部で17億ドル(1700億円)に上ることが明るみになりました。国務省もこれを認めています。

 国務省によれば、このカネは1978~79年にかけて発生したイラン革命「以前」からの経緯として「イランに対するアメリカの負債」の清算金だというのです。つまり、イスラム国家となる前の、パーレビ国王時代に発生した「負債」の「元本+利息」が膨れ上がったものというわけです。

 では、どうして40年近く経過した今になって支払われたかと言うと、これも国務省によれば「ハーグの国際司法裁判所などで係争」していたが、このたび「調停」の運びとなったので金額が確定したという説明がされています。

【参考記事】アメリカの外交政策で攻守交代が起きた

 なお支払いはすべてキャッシュで行われ、イラン側の希望によって「米ドル以外」という指定があったために、スイス・フランとユーロなど多数の通貨を混ぜる形で、スーツケースに入れてイランに運ばれたそうです。何とも生々しい話です。

 さて、当初は6億ドル、そして後に総額17億ドルという「イランへの支払い」に関して、アメリカの保守派はカンカンです。論点は主に2つあります。1点目は「スパイ容疑でイランに拘束されていた3人のアメリカ人の釈放と引き換え」だと思われるが、そうなると「国として身代金は払わない」という法律に違反するというのです。

 そして2点目としては、「そんな多額なカネがイランと同盟を結んでいるテロ集団のヒズボラなどに流れたら大変だ」という批判がされています。これに対して、国務省としては「ヒズボラへの横流しはあり得ない」とキッパリこれを否定、1点目についても「これは身代金ではない」と突っぱねています。

 この「押し問答」ですが、何が真相かというのは政治的立場によって変わるでしょうが、一歩引いて考えてみれば、「核合意における付帯事項」としてイランが要求し、米国がそれをのんだという解釈が一番納得できます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正-行き過ぎた動き「ならすこと必要」=為替につい

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 6

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story