コラム

共和党予備選はトランプ「失速」で振り出しに戻る大混戦

2015年09月18日(金)16時40分

 そこで、今回のトランプ候補は「暴言」を抑える作戦で来ました。例えば容姿を悪く言うことで「女性をバカにしている」と大批判を浴びた経緯があるカーリー・フィオリーナ候補に対しては「あなたは美人だ」と言ってみたり、散々「大統領になるにはエネルギー不足」だと「こき下ろして」いたジェブ・ブッシュ候補が、「じゃあ、自分のコードネームはハイ・エネルギーで行こう」とネタを「逆手に取る」と、お人好しにも「バカ受け」してみたりという感じで「ナイスガイ」を演出したのです。これに加えて、彼は慣れないせいもあって「割り込み」はしませんでした。

 それでは、完全にナイスガイの方向に振って、政策も過激路線を引っ込めるのかというと、それでは「一貫性がなさすぎる」と言われるのでできません。反対に、各候補から「そんなことは不可能だ」と突っ込まれると、そのたびに「釈明」を強いられるという構図になっていました。

 では、大破綻や失言をしたのかというとそうではなく、これで一気に支持が下がるということはないと思います。ですが、カーソン候補もそうですが、「門外漢」としての「勢い」で「プロ政治家を圧倒する」展開にはなりませんでした。

 終了後の一般的な評価としては、ヒューレット・パッカードの元CEOで、女性として初めて巨大IT企業を率いた、カーリー・フィオリーナ候補が得点を稼いだとされています。フィオリーナ候補は、とにかく割り込み、飛び込み、さらには時間オーバーも何度もやって、猛烈に存在感を売り込みました。

 ただ、内容は「オバマ&ヒラリー批判」や「イラン核合意批判」、あるいは麻薬や妊娠中絶への批判など「保守の定番メニュー」を「コワモテ」で訴えるだけ。しかも緊張していたのか、視線は落ち着かないし表情は固いままで、これでは百戦錬磨のヒラリーには勝てそうもないという印象です。

 そんな中、ジェブ・ブッシュ候補は無難に発言をまとめて、おそらく支持率の低落傾向には歯止めをかけることが出来たようです。また、今回の討論で得点を稼いだのは、フロリダ州選出の上院議員でヒスパニック系のマルコ・ルビオ候補と、オハイオ州知事のジョン・ケイシック候補だと思われます。

 ルビオ候補は、硬軟取り混ぜた対中戦略を説くなど政策論でポイントを稼いでいましたし、ケイシック候補は「居酒屋政談」風のザックバランな語り口の中に、中道右派の知恵のようなものを繰り出していて場内の支持を得ていました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権

ワールド

米空港で最大20%減便も、続く政府閉鎖に運輸長官が

ワールド

アングル:マムダニ氏、ニューヨーク市民の心をつかん

ワールド

北朝鮮が「さらなる攻撃的行動」警告、米韓安保協議受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story