コラム

新幹線放火事件、防犯カメラは効果が期待できるか?

2015年07月07日(火)18時15分

 ですが、『のぞみ』というのは、とにかくシーンとしていて、思い詰めたような表情のビジネスマンとか、「プレゼン命」という感じのスーツ姿の女性とか、あとはひたすら眠っている人とか、どこか張り詰めた雰囲気があります。

 今回の事件について、だから起きたとか、だからダメなんだというのは決して正当ではないし、被害に遭われた方にもそんな言い方は相応しくないのは分かっています。ですが、それはそれとして『のぞみ』というのは、ちょっと車内の雰囲気が不自然ということは気になります。

 例えばですが、車内放送にもっとヒューマンなテイストを加えるというのはどうでしょう? JR北海道では、旧国鉄調のスローで温かみのある声の声優さんを使って、例えば青函トンネル区間ではトンネルの概要を説明したり、停車駅の案内をしたりと工夫が見られます。東海道新幹線の場合は、マンネリ化したチャイム音や、機械的なアナウンスなど、どこか冷たい印象があります。

 勿論、多くの乗客に関しては「余計なアナウンスや冗長な語り」は、そんなに好評を博することはないでしょう。ですが、車内のトラブルを抑止する、あるいは思い詰めた悪意のある乗客に「最後のところで思いとどまらせる」ためのヒューマンタッチということは研究の余地があるように思います。

 これは新幹線ではありませんが、最近では相変わらず首都圏などでは、ラッシュ時に飛び込み(いわゆる「人身事故」)が続いているわけです。これもラッシュ時の独特のシーンとして張り詰めた群衆と言いますか、ホームにあふれたビジネス姿の男女の集団というのが、「自分はそこから疎外された」と思ってしまうと、もう「飛び込みの背中を押す」作用をしてしまうのではないかという印象があります。

 ではアメリカの通勤風景が「和気藹々」としているかというと決してそんなことはないわけですが、それはそれとして気になるということです。つまり、日本の鉄道というのが、人と人の出会いとか共存の場ということではなく、個々に分断された個人が「寂しく固まっている」という独特のカルチャーを持ってしまっているということです。

 首都圏を中心に「デジタルサイネージ」という仕掛けを通じて「音のないビデオ広告」の展開が拡大したり、地下鉄などでは「ワンマン運転」が増えてきたり、日本の鉄道文化の中に「非人間性」というような冷たいカルチャーがジワジワと増大しているようで、こうしたことも含めて大変に気になります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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