コラム

年内解散という「風」に対立軸はあるのか?

2014年11月13日(木)13時30分

 どうやら、今回の「解散風」はホンモノのようです。確かに、一部調査によれば国民の70%が「消費税率10%アップの先送り」を支持しているという環境下では、「先送りのための法改正について民意を問う」というのは、大義名分になります。

 また仮に「1年半の先送り」をするという「公約」を与党が掲げた場合には、目先の勝利の可能性は高いと思います。ですが、仮に勝ったとしても、安倍内閣としては以降の政権運営がラクになるとは限りません。そこには、大きな問題があるからです。

 それは、経済が不調だということです。いわゆる「アベノミクス」の狙った「円安」と「株高」は「黒田バズーカ砲」に再度依存しつつ、とりあえず実現しています。ですが、肝心の成長率がアップしません。また産業構造の転換も、そのための構造改革もほとんど進捗していません。この点で結果が出なければ来年半ば以降の政権は苦労するでしょう。しかも「1年半の先送り」をしたとして、2017年4月の経済は「10%」に耐えられるようにしなくてはならないのです。

 では、野党にチャンスはあるのでしょうか?

 仮に今回は自民党が優勢となるにしても、その「次」の政局では野党にチャンスがあるのでしょうか? 難しいと思います。現実問題として、野党が勢力を伸ばす可能性は大きくはありません。

 もちろん、分裂した野党の結集が難しいという問題があります。その結果として小選挙区制における対立の「軸」ができないのです。「軸」が形成できない中では、結局は与党への批判票をバラバラに分け合うだけで勝負になりません。

 では、現時点で日本の政治における「軸」とは何なのでしょうか? 政権交代は望めないにしても、仮に選挙があったとして、どんな「軸」を考えながら投票したらいいのでしょうか?

 まず軍事や外交におけるイデオロギーはどうでしょう? 安倍内閣の発足以来、この問題では色々な論争がありました。ですが、現時点では「主要な争点」にはなりにくいと思います。

 というのは、日中首脳会談が実現し米中の関係も改善する中で、安倍政権の右傾化であるとか、ナショナリズムを押すのか引くのかといった「イデオロギー論争」の重要性は軽減されているからです。もちろん、仮に沖縄県知事選で翁長氏が勝った場合に、その結果を総選挙で「上書き」していいのかとか、いわゆる「安保国会」における集団的自衛権の関連法に関する賛否という問題はありますが、主要な争点にはできないでしょう。

 では、今回の「消費税率アップの先送り」そのものに関してはどうでしょう? 景気への影響、あるいは「先送りは国際公約違反」だとして「日本国債の暴落を招く」といった懸念など、賛否両論の立場はあり得ます。ですが、人間の本性としての増税への忌避感ということを考えると、この消費税問題そのものの賛否を問う選挙戦というのは難しいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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