コラム

中国株暴落は共産党独裁の終わりの始まりか

2015年07月08日(水)17時55分

中国株暴落:激辛唐辛子 上昇傾向が続いていた上海総合株価指数は特に今年の3月11日以降、過去7年で最高となる値を連続して記録し、1日当たりの取引額も歴史的な数字を叩き出していた。人民日報などの官製メディアは楽観的に「官製強気市場」を吹聴。中国経済そのものの不景気な状態が1年あまり続いていたので、株式市場の「逆行」ぶりは共産党政権が自信を保つための「かなめ」の役割を果たした。この点について、人民日報は隠し立てもせず、自信をもってこう書いていた。「強気市場は発展に対する確信を強めるための『ガソリンスタンド』である。『新常態(ニューノーマル)』な経済発展では成長率のスローダウンは当然であり、いちいち騒ぎ立てる必要はない」

 中国の実体経済はすでにかなり減速しており、ピークを過ぎた不動産市場に代わり、爆発的に上昇を続ける株式市場があらゆる人の関心を引きつけていた。多くの経済学者は中国人が株取引に熱狂する様子を心配し、中国の株バブルはまもなく破裂すると絶え間なく警告を発していたが、彼らの微力な警告は盲目的で楽観的な官製メディアと市場に熱狂する「博徒」たちに無視され、多くの人が株取引、ひどい場合はリスクのかなり大きい金融商品にのめり込んでいった。

 6月12日、この狂乱的な株価上昇はついに終わりを迎えた。以来1カ月近く、失われた株式総額は総額1兆5000億人民元(30兆円)。この金額はギリシャのGDPの10倍にあたる。共産党政権は株価急落におびえ、次々を対策を打った。しかし経済学者たちにも想定外だったのだが、共産党政権の対策は被害を拡大しただけだった。もともとすぐに逃げ出すつもりだった個人投資家は、政府が対策をとると聞いて様子見を決め込み、結果的によりひどい損失を被ることになった。対策をしないほうがましだったわけだ。おまけに本来は株式市場だけにとどまっていたリスクが、目先の対策をとったばかりに不動産や社会保険、為替レートを巻き込む連鎖反応を起こしてしまった。

 製造業で言えば、ここ1年あまり私営企業主の暮らしはますます厳しくなっていた。惨憺とした経営に苦しむ多くの社長は株式市場の急騰という誘惑にがまんできず、流動資金を投入していた。今回の暴落は実体経済に必ず影響する。製造業にとっては「弱り目にたたり目」になるだろう。深圳と上海ではすでに株式市場の暴落が不動産取引に影響し、中古不動産の価格が下がり始めているようだ。上海では、手付金を払った買い主が資金難から購入をあきらめ、手付金を放棄するケースが出ている。ここ数日のうちに始まったこの現象は、今後ますます悪化するだろう。もともと赤字の中国の社会保障基金も株価急落の影響を受け、さらに問題が悪化している。

「洗脳」によって多くの国民の支持を取り付けた強大な中国共産党の独裁政権がいったいいつ倒れるのか、友人たちと議論したことがある。私は経済に問題が発生し全国民の利益に影響すれば、経済の危機が統治の危機を引き起こすと考えていた。今回の株価暴落が今までと違うのは、国民が巨額の資金だけではなく、共産党政権に対する信頼も急速に失いつつあるという点だ。さらにこの恐怖はブラックホールのようにすべてを飲み込もうとしている。株価暴落が始まったばかりのころ、官製メディアは国外の資金が中国の株式市場を「弾圧」している、と罪をなすりつけようとしていた。皮肉なことに、最初は様子見を決め込んでいた海外投資家たちも、そのうち本当に「弾圧」を始めたらしい。アメリカ市場では中国資本と関係する株がすべて下落したからだ。

 一枚また一枚と倒れたドミノをこのブラックホールは飲み込み続けるだろう。中国の株式市場危機は一連の経済危機の始まりに過ぎず、この危機は中国だけでなく世界に深刻な影響を与えかねない。

<次ページに中国語原文>

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

NZの10年超ぶり悪天候、最悪脱する 首都空港なお

ワールド

日米2回目の関税交渉、赤沢氏「突っ込んだ議論」 次

ワールド

原油先物が上昇、米中貿易戦争の緩和期待で

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時500円高 米株高や円安
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story