プレスリリース

IEEEが提言を発表 「ポケットの中の教師(Tutor in Your Pocket)」が世界中の学生に何をもたらすか

2025年04月29日(火)14時45分
IEEE(アイ・トリプルイー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、さまざまな提言やイベントなどを通じ科学技術の進化へ貢献しています。

スマートフォンのアプリを通じて、大規模言語モデルが瞬時に質問に答えたり、複雑な概念を解説したりする機能のことを「ポケットの中の教師」と呼ぶことがあります。

このような機能は、今や世界中で急速に広まっている低価格AIの現象とも重なり合っています。これら2つの技術が融合することで、世界の教育は変革の時を迎えようとしています。遠隔地など、教育が届きにくかった地域の生徒にもカスタマイズされた学習体験を提供し、これまでにない形で質の高い教育環境へのアクセスが可能になります。

IEEEメンバーのSaptarshi Ghosh(サプタルシ・ゴーシュ)氏は、次のように述べています。「へき地や支援が行き届かない地域の教育現場では、長年にわたり深刻な教育環境の不備が課題となってきました。具体的には、優れた教師の不足、良質な教材への限られたアクセス、そして個別指導の欠如などが挙げられます。インターネットは学びの扉を大きく開きましたが、個々の学生のニーズにきめ細かく応えるという点では、なお十分とはいえません。AIはその現状を打破します。」


■AIが挑む、長年の教育ギャップ
AIを活用した学習システムは、すでに導入が始まっています。生成AIを取り入れた語学学習アプリでは、実生活での会話に近い対話形式の練習が可能となっています。

しかし、こうした技術を教育環境に恵まれていない学校にまで導入する取り組みは、まだ始まったばかりです。この課題に対処するパイロットプロジェクトが一定の成果を上げ始めています。

学術ジャーナル「IEEE Transactions on Education」で紹介された、あるプロジェクトでは、AIを搭載した教師機能が約88%という高い正答率を記録しました。別のプロジェクトでは、数学の指導において大規模言語モデルが犯した誤りを、生徒たちがしばしば見抜いていたことがわかりました。また、この研究チームは、問題の正しい解き方をすでに理解している生徒のほうが、AIの間違いに気づきやすいことを確認しました。この結果から、研究者たちは、生成AIを教育ツールとして頼りすぎることに対して警鐘を鳴らしています。


■事実を伝えるだけではない
生成AIおよび大規模言語モデルが「ポケットの中の教師」としての役割を果たすという発想には、いくつかの弱点もあります。その最たるものは、教育は事実を伝えるだけではないという点です。生成AIで新しい数学の技術を習得しても、それを現実の世界で使いこなす力までは身につかないのです。
IEEEの大学院生メンバーであるSiyuan Sun(スン・シユアン)氏は、次のように述べています。「教育は、価値形成、能力訓練、知識伝達という3つの重要な要素で構成されています。AIは知識の平等な伝達に大きく寄与しますが、教育の根幹をなす価値観や能力の育成には物足りません。」
多くの専門家は、新型コロナウイルスのパンデミック直前までは、広く行き渡ったインターネット接続環境とオンライン学習の利用により、学生の学習が継続できると期待していました。しかし、コロナ禍により、世界の多くの地域で対面での授業ができなかったことにより、テストの成績が下がったことが指摘されています。ひとつの懸念は、AIに頼りすぎることで、当時と同じような問題がまた起きるのではないかという点です。

IEEEメンバーのGabriel Gomes de Oliveira(ガブリエル・ゴメス・デ・オリヴェイラ)は、次のように述べています。「まさにそれが大きな課題と言えるでしょう。教育分野での生成AIと比べると、共通している部分もありますが、重要な違いもあります。共通点としては、技術への過度な依存や、批判的に考える力の低下が挙げられます。異なる点は、生成AIはあくまで教師を補完する存在であって代替ではないこと、教師と連携しながら学生の個性に合わせた学習を進められることです。」


■IEEEについて
IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っています。
IEEEは、電機・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2,000以上の現行標準を策定し、年間1,800を超える国際会議を開催しています。

詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。


詳細はこちら
プレスリリース提供元:@Press
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで

ワールド

クラウドフレアで障害、数千人に影響 チャットGPT

ワールド

イスラエル首相、ガザからのハマス排除を呼びかけ 国

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中