プレスリリース

バイリンガル子育ての6つの誤解

2023年07月13日(木)14時00分

「ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所」(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>ではグローバル化社会における幼児期からの英語教育の有効性や重要性に関する情報を定期的に発信しています。
今回は、日本に住むさまざまな家庭でのバイリンガル子育て(「英語を母語とする親」、「英語が母語ではないが流暢に話せる親」、「日本語モノリンガルの親」など)について研究されてきた中村ジェニス准教授(神奈川大学)にお話を伺いました。


■ <インタビュー記事概要>
●バイリンガルの子どもは、ことばを話し始める前から一つの事物に二つの言い方(二つの言語)があることを理解し、
インプットの頻度や豊かさ、親の会話の進め方の影響を受けながら二言語の語彙が異なるペースで発達していく。
●バイリンガル子育てに取り組む親は、日英バイリンガルが日本語モノリンガルと英語モノリンガルの合計ではないことを理解し、モノリンガルの言語発達と比較せずに忍耐強くインプットを続けること、子どもがあまり話さない言語があれば発話を促すことが重要。
●豊かなインプットをたくさん与えられる英語力がない親の場合は、英語を使って子育てをするのではなく、さまざまなインプット方法の組み合わせや、英語を日常生活と結びつけたりするサポートによって子どもの英語習得を手助けできる。

自分の息子の日本語・英語が発達していく様子を記録した貴重なデータ
中村ジェニス准教授は、同時性バイリンガル(生まれたときから二つの言語に同時に触れて育ったバイリンガル)の言語発達についての研究をしています。研究スタート当時、中村ジェニス准教授は妊娠中でした。出産後、息子さんがことばを理解するようになった生後9カ月のタイミングで、語彙発達に関するデータ収集を開始します。言えるようになった語彙はすべて日記に記録し、発語が始まってからは2週間に1回のペースでビデオ撮影も行いました。これは、日本に住んでいる子どもを対象に、前言語期から発話期のはじめまでの生後2年間、日本語と英語の発達を調査した事例研究です(Nakamura, 2011b)。同様の研究の中では、おそらく最も詳細なデータが得られていると中村ジェニス准教授は言います。
その後、親が母語ではない言語で子育てをする事例などについての研究も手掛けました。それらの研究から得られた知見を、バイリンガル子育てに関する情報を本当に必要としている人に伝えるため、ブログ執筆のほか、ベトナムや香港、スコットランド、アメリカなど、世界中のバイリンガル家庭で個別カウンセリングも行ってきました。


■ バイリンガル子育て6つの誤解
バイリンガル子育てで言われる次の6つの情報はすべて間違いであると中村ジェニス准教授は指摘します。

誤解1 赤ちゃんは二つの言語で混乱する
誤解2 二つの言語は同じペースで発達していく
誤解3 親が話す言語は、子どもも自然に話せるようになる
誤解4 両方の言語がモノリンガルと同じペースで発達しなければ、言語発達に問題がある
誤解5 英語のネイティブ・スピーカーでない親は、子どもをバイリンガルに育てることができない
誤解6 子育てで使う英語は簡単だから、誰でも自分でバイリンガルを育てられる


まとめ:日本でのバイリンガル子育ては簡単ではないが、さまざまな工夫ができる
インタビューでは、バイリンガル子育てに関して日本で広まっている通説をいくつか取り上げてお話を伺いました。前編では、乳幼児期の二言語発達をテーマとし、日本語と英語での発達ペースの違いは自然な現象であること、モノリンガルの言語発達と比較せずに忍耐強くインプットを続ける必要があることがわかりました。
後編では、親の英語力や取り組みをテーマとし、日本の親が子どもに英語で話しかけることの効果はかなり限定的であり、さまざまな方法を組み合わせてインプットの量と豊かさを確保できるようにすることが重要だとわかりました。歌、映像、絵本、英会話レッスン、英語を使った遊びや学び、英語を話す人たちとの交流など、さまざまなインプット方法があるため、どれをどのように組み合わせると効果的かという点は今後明らかにしていく必要があります。しかし、今回紹介したバイリンガル子育てにおける大切な考え方を頭に入れておくことは、親も子どもも楽しんで継続できるような取り組み方を決める際に大いに役立つと考えられます。
(取材:IBS研究員 佐藤 有里)

【Profile】中村 ジェニス准教授(神奈川大学 外国語学部 英語英文学科)
専門は、バイリンガリズム、バイリンガル教育、言語習得、社会言語学。日本に住んでいる子どものバイリンガリズムや家庭の言語方針について研究。過去16年間で100以上の国際結婚家庭に関わり、『English Today』などの学術誌で多数の論文を発表。マレーシアのクアラルンプールで複数の言語に触れて育つ。2002年に日本への移住後、英語、客家語、広東語、北京語、マレー語に加えて、日本語を第6言語/方言として習得。親子間のやりとりや家族の言語方針を調査することにより、日本における家庭内バイリンガリズムにおいてどのような言語面・非言語面の障壁があるかを明らかにしようとしている。

※詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記の記事をご覧ください。
前編:https://bilingualscience.com/english/2023071101/
後編:https://bilingualscience.com/english/2023071301/

■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所
(World Family's Institute of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関 HP(https://bilingualscience.com/
Twitter( https://twitter.com/WF_IBS )
所 長:大井静雄
脳神経外科医・発達脳科学研究者ドイツ・ハノーバー国際神経科学研究所(INI)小児脳神経外科名誉教授・医学博士
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月



詳細はこちら
プレスリリース提供元:@Press
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中